東京地方裁判所 平成元年(行ウ)64号 判決 1991年12月25日
東京都千代田区丸の内3丁目1番1号
62号事件原告
東洋郵船株式会社
右代表者代表取締役
横井英樹
東京都世田谷区尾山台1丁目14番21号
63号事件原告
横井邦彦
東京都港区赤坂9丁目5番12号
64号事件原告
坂倉智津子
東京都大田区田園調布3丁目1番10号
65号事件原告
横井路子
東京都大田区田園調布4丁目29番13号
65号事件原告
南方由美子
東京都渋谷区渋谷4丁目2番9号
66号事件原告
横井枝理子
右6名訴訟代理人弁護士
浅見敏夫
同
横井治夫
東京都千代田区九段南1丁目1番15号
62号事件被告
麹町税務署長 安藤元久
東京都世田谷区玉川2丁目1番7号
63号事件被告
玉川税務署長 中村保長
東京都港区西麻布3丁目3番5号
64号事件被告
麻布税務署長 佐藤清勝
東京都大田区雪谷大塚町4番12号
65号事件被告
雪谷税務署長 平林喜好
東京都渋谷区宇田川町1番10号
66号事件被告
渋谷税務署長 深澤廣
右5名指定代理人
三代川俊一郎
同
和栗正栄
同
新井宏
同
石津嶺祐
同
三浦道隆
同
阿部豊明
主文
一 被告麹町税務署長が、原告東洋郵船株式会社の昭和57年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税について昭和61年2月27日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち,所得金額2,758,178,638円として計算した額を超える部分を取り消す。
二 原告東洋郵船株式会社のその余の請求を棄却する。
三 被告玉川税務署長が,原告横井邦彦の昭和57年分所得税について昭和61年3月13日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち,総所得金額を15,212,846円,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分を取り消す。
四 被告麻布税務署長が,原告坂倉智津子の昭和57年分所得税について昭和61年3月12日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分を取り消す。
五 被告雪谷税務署長が,原告横井路子の昭和57年分所得税について昭和61年3月12日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分を取り消す。
六 被告雪谷税務署長が,原告南方由美子の昭和57年分所得税について昭和61年3月12日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分を取り消す。
七 被告渋谷税務署長が,原告横井枝理子の昭和57年分所得税について昭和61年3月13日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分を取り消す。
八 訴訟費用中,原告東洋郵船株式会社と被告麹町税務署長との間に生じた部分は,これを二分し,その一を同原告の,その余を同被告の各負担とし,原告横井邦彦と被告玉川税務署長との間に生じた部分,原告坂倉智津子と被告麻布税務署長との間に生じた部分,原告横井路子及び同南方由美子と被告雪谷税務署長との間に生じた部分,原告横井枝理子と被告渋谷税務署長との間に生じた部分は,それぞれ右各被告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
(62号事件)
1 被告麹町税務署長が,原告東洋郵船株式会社(以下「原告東洋郵船」という。)の昭和57年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について昭和61年2月27日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち,所得金額を194,077,508円として計算した額を超える部分を取り消す。
2 被告麹町税務署長が昭和61年2月27日付及び昭和62年2月23日付で原告東洋郵船に対してした,昭和57年1月から昭和60年12月までの各月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分及び各不納付加算税賦課決定のうち,源泉所得税を別表第一の「自認額」欄記載の金額として計算した額を超える部分を取り消す。
3 訴訟費用は被告麹町税務署長の負担とする。
(63号事件)
1 主文三項と同旨
2 訴訟費用は被告玉川税務署長の負担とする。
(64号事件)
1 主文四項と同旨
2 訴訟費用は被告麻布税務署長の負担とする。
(65号事件)
1 主文五項及び同六項と同旨
2 訴訟費用は被告雪谷税務署長の負担とする。
(66号事件)
1 主文七項と同旨
2 訴訟費用は被告渋谷税務署長の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(62号事件)
1 原告東洋郵船の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告東洋郵船の負担とする。
(63号事件)
1 原告横井邦彦の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告横井邦彦の負担とする。
(64号事件)
1 原告坂倉智津子の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告坂倉智津子の負担とする。
(65号事件)
1 原告横井路子及び同南方由美子の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告横井路子及び同南方由美子の負担とする。
(66号事件)
1 原告横井枝理子の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告横井枝理子の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
(62号事件)
1 原告東洋郵船が本件事業年度の法人税についてした確定申告,被告麹町税務署長がした更正及び過少申告加算税賦課決定(以下,それぞれ,「原告東洋郵船に対する更正」,「原告東洋郵船に対する賦課決定」という。)並びに原告東洋郵船がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第二の一のとおりである。
2 被告麹町税務署長が昭和61年2月27日付及び昭和62年2月23日付で原告東洋郵船に対してした昭和57年1月から昭和60年12月までの各月分の給与所得の源泉所得税の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び各不納付加算税賦課決定(以下「本件各不納付加算税賦課決定」という。)の内容は,別表第一の「納税告知に係る源泉所得税額」欄及び「不納付加算税額」欄記載のとおりであり,原告東洋郵船がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第二の二のとおりである。
3(一) 原告東洋郵船は,原告東洋郵船に対する更正及び賦課決定のうち,所得金額を194,077,508円として計算した額を超える部分について不服であるから,その取消しを求める。
(二) また,原告東洋郵船は,本件各納税告知処分及び本件各不納付加算税賦課決定のうち,源泉所得税を別表第一の「自認額」欄記載の金額として計算した額を超える部分について不服であるから,その取消しを求める。
(63号事件)
1 原告横井邦彦(以下「原告邦彦」という。)が昭和57年分所得税についてした確定申告,被告玉川税務署長がした更正及び過少申告加算税賦課決定(以下,それぞれ,「原告邦彦に対する更正」,「原告邦彦に対する賦課決定」という。)並びに原告邦彦がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第三の一のとおりである。
2 原告邦彦は,原告邦彦に対する更正及び賦課決定のうち,総所得金額を15,212,846円,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分について不服であるから,その取消しを求める。
(64号事件)
1 原告坂倉智津子(以下「原告智津子」という。)が昭和57年分所得税についてした確定申告,被告麻布税務署長がした更正及び過少申告加算税賦課決定(以下,それぞれ,「原告智津子に対する更正」,「原告智津子に対する賦課決定」という。)並びに原告智津子がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第三の二のとおりである。
2 原告横井智津子は,原告智津子に対する更正及び賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分について不服であるから,その取消しを求める。
(65号事件)
1 原告横井路子(以下「原告路子」という。)昭和57年分所得税についてした確定申告,被告雪谷税務署長がした更正及び過少申告加算税賦課決定(以下,それぞれ,「原告路子に対する更正」,「原告路子に対する賦課決定」という。)並びに原告路子がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第三の三のとおりである。
2 原告南方由美子(以下「原告由美子」という。)が昭和57年分所得税についてした確定申告,被告雪谷税務署長がした更正及び過少申告加算税賦課決定(以下,それぞれ,「原告由美子に対する更正」,「原告由美子に対する賦課決定」という。)並びに原告由美子がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第三の四のとおりである。
3 原告路子は,原告路子に対する更正及び賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分について,また,原告由美子は,原告由美子に対する更正及び賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分について,それぞれ不服であるから,その取消しを求める。
(66号事件)
1 原告横井枝理子(以下「原告枝理子」という。)が昭和57年分所得税についてした確定申告,被告渋谷税務署長がした更正及び過少申告加算税賦課決定(以下,それぞれ,「原告枝理子に対する更正」,「原告枝理子に対する賦課決定」という。)並びに原告枝理子がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第三の五のとおりである。
2 原告枝理子は,原告枝理子に対する更正及び過少申告加算税賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分について不服であるから,その取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否
(62号事件)
請求の原因1及び2は認める。
(63号事件)
請求の原因1は認める。
(64号事件)
請求の原因1は認める。
(65号事件)
請求の原因1及び2は認める。
(66号事件)
請求の原因1は認める。
三 抗弁
(62号事件)
1(一) 被告麹町税務署長が本訴で主張する原告東洋郵船の本件事業年度の所得金額は,別表第四のとおり,6,692,663,884円であり,原告東洋郵船に対する更正に係る所得金額6,542,663,884円を上回るから,原告東洋郵船に対する更正は適法である。
(二) 別表第四の各項目のうち,争いあるものの算定根拠は次のとおりである。
(1) 土地譲渡益計上漏れ及び受贈益計上漏れ
ア 原告東洋郵船は,原告邦彦,原告智津子,原告路子,原告由美子及び原告枝理子(以下右5名の原告を「原告ら5名」という。)との間の昭和56年11月30日付不動産交換契約書に基づき,昭和57年6月24日,原告ら5名との間で,原告東洋郵船所有の別表第五の番号1ないし16記載の各土地(面積合計39,717.77m2。以下右各土地を併せて「A土地」という。)と原告ら5名の共有の同町仙石原字六郎兵衛1246番1062所在の土地(地目山林,面積31,500m2。以下「B土地」という。)とを交換する契約(以下「本件交換Ⅰ」という。)をした。
イ また,原告東洋郵船は,凸版印刷株式会社(以下「凸版印刷」という。)との間の昭和57年1月18日付土地交換契約書に基づき,同2月1日,凸版印刷との間で,原告東洋郵船所有の神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字六郎兵衛1246番1147所在の土地(地目山林,面積2,525.48m2。以下「C土地」という。)と凸版印刷所有の同町仙石原字イタリ1245番367所在の土地(地目山林)及び同所同番440所在の土地(地目宅地,右各土地の面積合計2,525.89m2。以下右各土地を併せて「D土地」という。)とを交換する契約(以下「本件交換Ⅱ」という。)をした。
ウ 原告東洋郵船は,本件事業年度の法人税の申告に当たって,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱについていずれも法人税法50条1項所定の取得資産の圧縮記帳に伴う圧縮額の損金算入の特例(以下「特例Ⅰ」という。)の適用があるものとしてその所得金額を算出した。
エ しかしながら,特例Ⅰは,交換による取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額がこれらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する額を超える場合には適用されない(法人税法50条2項)。そして,後記(三)のとおり,本件交換Ⅰにおいて,原告東洋郵船が取得したB土地の交換時の価額は6,268,500,000円(1m2当たり199,000円)と,原告東洋郵船が譲渡したA土地の交換時の価額は2,334,014,754円(1m2当たり58,765円)とそれぞれ評価されるから,その差額は3,934,485,246円であり,右の額は多額であるB土地の交換時の価額の20/100に相当する額を超えている。
オ また,特例Ⅰは,法人税の確定申告書に,法人税法50条1項による圧縮額の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り適用されるところ(同条三項),原告東洋郵船から提出された本件事業年度の法人税の確定申告書には,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱにつきいずれも右の明細の記載がなかった。
カ したがって,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱについて,特例Ⅰを適用して取得資産であるB土地及びD土地の圧縮記帳に伴う圧縮額の損金算入はできない。そうすると,原告東洋郵船の申告所得金額に本件交換Ⅰ及び本件交換ⅡによるA土地及びC土地の譲渡益を加算すべきところ,右譲渡益は次のとおりである。
a 本件交換Ⅰ
A土地の交換時の価額に相当する2,334,014,754円を譲渡収入金額として,右金額からA土地の交換直前の帳簿価額104,685,308円を控除した2,229,329,446円である。
b 本件交換Ⅱ
C土地の交換時の価額に相当する502,570,520円を譲渡収入金額として,右金額からC土地の交換直前の帳簿価額3,713,757円を控除した498,856,763円である。
c 合計 2,728,186,209円
キ また,右カのとおり,本件交換Ⅰについて特例Ⅰを適用して取得資産であるB土地の圧縮記帳に伴う圧縮額の損金算入をすることはできないので,交換時のB土地の価額に相当する6,268,500,000円のうちA土地の価額に相当する2,334,014,754円を超える部分の金額3,934,485,246円は,原告ら5名からの無償の資産の譲受けに係る受贈益として,これを原告東洋郵船の申告所得金額に加算すべきである。
(2) 受取利息計上漏れ(横井英樹分)
ア 原告東洋郵船は,代表取締役である横井英樹の指示に基づき,経理担当者が,使途及び内容を知らされないまま横井英樹に現金を交付し若しくは小切手若しくは手形を振り出して交付するという方法又は同人が,その所持していた原告東洋郵船の小切手帳及び印章を使用して自ら随時小切手を振り出すという方法で,従前から多額の金員を横井英樹に支給していた。右金員のうち,使途及び内容の判明したものは該当する勘定科目で経理処理されたが,使途及び内容の判明しない金額については仮払金若しくは前渡金として,又は仮受金の減少として経理処理をしていた(なお右金員のうち当初から横井英樹に対して支出されたことが明らかであるものは,期中はH・Y勘定として処理し,本件事業年度前までは原則として期末に同勘定の残高を仮払金勘定に振り替える処理をしていた。以下,仮払金若しくは前渡金として又は仮受金の減少として経理処理された右の金額を「本件仮払金等」という。)しかし,本件仮払金等が原告東洋郵船の業務上の支出に充てられたことはなかったので,本件仮払金等は横井英樹に対する貸付金と認められる。
イ 本件事業年度の初日である昭和57年1月1日におけるそれまでの本件仮払金等の残高は2,168,709,754円であったところ,原告東洋郵船は,同年11月16日付で本件仮払金等のうち750,000,000円を投資有価証券勘定へ,同年12月31日付で1,091,754,304円を日本産業勘定へ,同日付で299,850,028円を東洋不動産勘定へそれぞれ振り替える経理処理をした(日本産業株式会社及び東洋不動産株式会社は,いずれも原告東洋郵船と同様,横井英樹及びその一族を株主とする同族会社であり,そのそれぞれの経理は原告東洋郵船の経理担当者が兼ねて行っていた。以下,右両社をそれぞれ「日本産業」,「東洋不動産」といい,また,右の投資有価証券勘定並びに日本産業勘定及び東洋不動産勘定への振替処理を併せて「本件振替処理」と,本件振替処理のうち日本産業勘定及び東洋不動産勘定への振替処理を「関連会社振替処理」という。)しかし,本件振替処理は,その処理の根拠となるべき資金の移動がないのに,経理担当者が同一であることを奇貨とし,課税回避を目的としてなされた架空のものであった。
ウ 本件振替処理に係る合計2,141,604,332円の減少以外に,本件事業年度中,本件仮払金等の額に変動はなかった(ただし,本件事業年度末におけるH・Y勘定の残高374,810,121円については仮払金勘定への振替処理はなされなかった。)。そうすると,昭和57年1月1日現在における本件仮払金等の額2,168,709,754円に対する利息金に相当する額で,利息として計上処理されていない額は,原告東洋郵船が横井英樹から収受すべき受取利息の計上漏れ額と認定すべきところ,原告東洋郵船が金融機関等から借入れを行う際の借入利率及び原告東洋郵船が関連会社に貸付けを行う際の貸付利率の平均が年8%を下回ることはないから,右2,168,709,754円に8%を乗じて得た173,496,780円から,原告東洋郵船が横井英樹からの受取利息として本件事業年度に未収計上した金額4,0064,688円を控除した133,432,092円が,原告東洋郵船が横井英樹から収受すべき受取利息の計上漏れ額であると認められる。
なお,右認定に係る受取利息計上漏れ額は,後記(4)のとおり,横井英樹に対する役員報酬として全額認容した。
エ なお,後記五(原告らの主張及び再抗弁)の2の(一)のとおり,原告東洋郵船は,横井英樹が原告東洋郵船に対する本件仮払金等の返還債務のうち1,391,604,332円の弁済に代えて,同人の日本産業に対する貸付金債権1,091,754,304円及び同人の東洋不動産に対する貸付金債権299,850,028円を譲渡したこと(以下「本件債権譲渡」という。)に伴う経理処理として,関連会社振替処理がされた旨主張する。
しかしながら,次の各事情を併せ考えれば,本件債権譲渡が存在しないことは明らかである。
a 横井英樹が本件債権譲渡の意思表示をしたこと並びに債務者である日本産業及び東洋不動産に対し債権譲渡の通知をし,あるいは右二社がその承諾をしたことを証するに足りる資料は何ら存在しない。
b 仮に,原告東洋郵船の主張のとおり,横井英樹が原告東洋郵船に対する本件仮払金等の返還債務の代物弁済として,日本産業及び東洋不動産に対して有する債権を原告東洋郵船に譲渡したというのであれば,単に債務の弁済があったに止まらず,原告東洋郵船とその代表取締役である横井英樹との間で代物弁済契約という利益相反行為が新たに行われたものであるから,代物弁済契約につき取締役会の承認が必要とされるものである(商法265条)。なぜなら,債権の価値は債務者の資力にかかっているものであるところ,日本産業は,昭和56年1月1日から同年12月31日までの事業年度において,3,200,000,000円を超える未処理損失を計上している法人であり,このような法人に対する債権を代物弁済契約により譲り受けたとしても,原告東洋郵船がこれを回収することは著しく困難であって,かかる不良債権を取得することにより,他方では横井英樹に対する同額の債権を失うという不利益を被る結果となるからである。したがって,原告東洋郵船が横井英樹に対する本件仮払金等の債権の代物弁済として,1,300,000,000円を超える債権を譲り受けたというのであれば,会社の意思を明らかにする取締役会等の機関の決議があって然るべきであるのに,かかる決議に全く行われていない。
c 横井英樹は,昭和57年2月8日に発生したホテルニュージャパン火災事故により同年11月18日に業務上過失致死傷罪の被疑事実によって逮捕され,引き続き昭和58年2月21日まで勾留されていた。したがって,関連会社振替処理が行われた昭和57年12月31日当時,同人は勾留中であって,本件債権譲渡の意思表示を行い得る状況にはなかった。
d 日本産業は,昭和57年12月31日付で関連会社振替処理に係る金額を含む横井英樹に対する昭和56年12末日現在の債務の合計額1,122,469,614円を原告東洋郵船に対する債務に振り替える経理処理を行っていたところ,昭和62年1月24日,日本産業が右と同額の1,122,469,614円を横井英樹の預金口座に入金し,横井英樹は右入金に係る金額と同額を原告東洋郵船の預金口座に入金するという処理をしている。右の処理は,日本産業が横井英樹に対する昭和56年末現在の債務を昭和62年1月24日に至って初めて弁済し,横井英樹は,これを同人の原告東洋郵船に対する債務の弁済に充てたことにほかならない。
そうすると,横井英樹が昭和57年12月31日に原告東洋郵船に譲渡したとされている同人の日本産業に対する債権及び右債権譲渡によって代物弁済したとされている横井英樹の原告東洋郵船に対する債務は,いずれも,少なくとも昭和62年1月24日までは存在していたというべきである。
なお,原告東洋郵船は,後記五の2の(六)のとおり,右の昭和62年1月24日の各入金処理につき,原告東洋郵船が,東京国税局の係官から,現実の資金移動がなければ関連会社振替処理は認められない旨告げられたので,横井英樹に係る認定利息に対する課税を避けるために,小切手を用いて形式上資金移動をした外形を作出したものである旨主張するが,東京国税局の係官は,本件債権譲渡が真実行われたものとは到底考えられないと判断し,原告東洋郵船の経理担当者である井原弘に対し,原告東洋郵船の横井英樹に対する本件仮払金等の債権が消滅したことを証明しない限り,横井英樹に対する利息を認定してこれに対する課税をせざるを得ないという趣旨を告げたものであって,これに対して,原告東洋郵船,横井英樹及び日本産業は,右の昭和62年1月24日の各入金処理をしたものであるから,本件債権譲渡が存在しないことを自認したものにほかならない。
オ 仮に,昭和57年12月31日に関連会社振替処理に係る原告東洋郵船の横井英樹に対する本件仮払金等の債権が消滅していたとしても,右債権は,本件事業年度の全期間を通じて存在していたことになるところ,ある事業年度を通じて利息計算の基礎となるべき元本が貸し付けられている場合には,その貸し付けられた期間に対応する利息も当然に発生し,当該事業年度の収益として益金の額に算入すべきことになるのであるから,原告東洋郵船の本件事業年度の法人税の計算上,収益に計上すべき受取利息の計上漏れ額の計算には何ら影響を及ぼすものではない。
なお,原告東洋郵船は,後記五の2の(七)のとおり,原告東洋郵船が従来から関連会社に対する貸付金等の受取利息額について当該債権勘定の期首及び期末残高の合計額を二で除した平均残高に8%の利率を乗じて算出する取扱いをしていたので,これに従って,横井英樹に対する利息額を算出すべき旨主張するが,右の方法は,当該事業年度中における債権額が増減している場合に,期中の債権勘定の平均残高を算出するに当たって採用した便法に過ぎず,期中を通じて残高に増減のない本件事業年度における原告東洋郵船の横井英樹に対する本件仮払金等の債権に対する利息額を計算する場合に,右の便法に従う必要はない。
(3) 過大役員報酬否認
本件事業年度において,原告東洋郵船が横井英樹に支給した役員報酬の額は,原告東洋郵船が横井英樹個人の家事使用人に対し支出した給料等を役員報酬として期末に振替計上した11,016,000円と,後記(4)のとおり,右(2)の横井英樹から収受すべき受取利息の計上漏れ額を同人に対する役員報酬として認容した133,432,092円との合計額である144,448,092円である。しかしながら,本件事業年度において原告東洋郵船が横井英樹に対して支給すべき適正役員報酬額は年額25,200,000円であり,これを超える部分は法人税法34条1項の不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額に当たる。したがって,同項に基づき,右144,448,092円のうち25,200,000円を超える部分の金額である119,248,092円は,これを損金に計上することを否認し,所得金額に加算すべきである。
(4) 役員報酬認容(横井英樹分)
法人税法上,法人が金銭を貸し付けたにもかかわらず,通常収受すべき利息を取得せず,その相手方がその支払を免れている場合には,当該法人は,その相手方に対して通常収受される利息の額に相当する金額の経済的利益を供与したものと解される。そして,右(2)のとおり,原告東洋郵船は,本件事業年度において,横井英樹に対する実質的な貸付金である本件仮払金等の額に対する受取利息と認定される額のうち133,432,092円を利息として計上しておらず,横井英樹は本来原告東洋郵船に支払うべき右利息相当額の負担を免れているから,原告東洋郵船は,横井英樹に対し右計上漏れ利息相当額の経済的利益を与えたことになり,右経済的利益の供与は実質的に横井英樹に対して役員報酬を支給したと同様の経済的効果を与えたことになる。
そうすると,右(2)の受取利息計上漏れ額に相当する133,432,092円を横井英樹に対する役員報酬額として認容すべきである。
(5) 受取利息過大計上
右(2)のとおり,関連会社振替処理を認めることができないから,原告東洋郵船が,本件事業年度中に,日本産業勘定及び東洋不動産勘定において右両社に対する債権についての受取利息として計上した金額のうち,関連会社振替処理により有するに至ったとされる債権額に係る受取利息の額は,過大計上として認容すべきであり,その金額は次のとおりである。
ア 日本産業勘定に係る過大計上額
原告東洋郵船と関連会社との間で授受される貸付金等の受取利息の額の計算方法は,当該貸付金等の期首残高と期末残高との合計額の1/2に年利率8%を乗ずるというものであるから,これと同一の計算方法を用いて日本産業勘定に係る過大計上額を次のとおり算出すべきである。
① 期首残高 4,038,126,993円
② 帳簿上の期末残高 7,289,390,288円
③ 関連会社振替処理に係る金額 1,091,754,304円
④ 帳簿上の利息計上額 453,100,691円
(算式 (①+②)×1/2×0.08)
⑤ 関連会社振替処理がなかったものとした場合の利息計上額 409,430,519円
(算式 (①+(②-③))×1/2×0.08)
⑥ 過大計上額 43,670,172円
(算式 ④-⑤)
イ 東洋不動産勘定に係る過大計上額
原告東洋郵船の東洋不動産勘定における本件事業年度の期首残高は83,648,999円の借越残であったところ,原告東洋郵船は帳簿上の期末残高が205,489,439円の貸越残であったとして受取利息4,873,617円を計上した。
(算式 -83,648,999+205,489,439)×1/2×0.08=4,873,617)
しかし,東洋不動産に係る関連会社振替処理がなかったものとした場合の期末残高は,右帳簿上の期末貸越残高205,489,439円から関連会社振替処理に係る金額299,850,028円を差し引いた94,360,589円の借越残となるから,右受取利息計上額4,873,617円全額が過大計上額となる。
(6) 支払利息認容
右(5)のイのとおり,原告東洋郵船の東洋不動産勘定における本件事業年度の期首残高は83,648,999円の借越残であり,また,期末残高は94,360,589円の借越残であるものと認められるから,右金額に係る支払利息の額を認容すべきところ,右支払利息の額は右(5)のアの方法により計算すべきであり,その額は7,120,383円となる。
(算式 (83,648,999+94,360,589)×1/2×0.08=7,120,383)
(三) A土地及びB土地の価額について
土地の価額の鑑定評価の方式としては,対象土地の近隣地域又は同一需給圏内の類似地域において,対象土地と類似の土地の取引が行われている場合においては,右類似取引事例を収集,選択して,これらの価格に事情補正及び時点修正を行い,かつ,地域要因及び個別要因の比較を行って対象土地の資産価格を求める取引事例比較法の手法を用いるのが最も適切である。そして,右評価を行うに当たって比較されるべき取引事例としては,不動産取引市場の限定性から,対象土地との間に地域的,場所的,性状的類似性が要求され,また,取引時期についても,接近しているか,時点修正の可能なものが望ましいことはいうまでもない。特に,対象土地自体又は対象土地と位置,形状,地勢,接面街路,供給処理施設,公法規制及び現況等が酷似している土地について,評価時点に近い時期に売買取引が行われ,その取引が正常な取引の範囲内にあると認められるときは,右取引事例における売買価格を基礎として対象土地の価額を評価するのが相当である。
(1) 本件交換Ⅰ当時のA土地の価額
ア 原告ら5名は,昭和59年9月29日,A土地のうち,別表第五の番号15,17及び20記載の各土地をそれぞれ東京石亭株式会社に同表の番号18,19及び21記載の各土地をそれぞれエイチ・ティー・エンタープライズ株式会社に,いずれも1m2当たり60,405円の価額で売り渡した(以下,右各売買を「A土地取引事例」といい,A土地取引事例に係る同表の番号15,17ないし21記載の各土地を「A売渡土地」という。)。
イ A売渡土地はA土地の一部であり,かつ,A売渡土地とA土地のその余の部分とは,本件交換Ⅰが行われた時点において,その性状,利用状況等が概ね同一である。また,A土地取引事例のあった時期は本件交換Ⅰの行われた時期に近く,かつ,その買受人である東京石亭株式会社及びエイチ・ティー・エンタープライズ株式会社は,いずれも原告と特殊な関係にはない営利法人であって,その取引価額は正常に形成されたものと認められる。
ウ したがって,A土地取引事例における取引価額を基礎として本件交換Ⅰ当時のA土地の価額を評価することは極めて合理的である。そして,国土利用計画法(以下「国土法」という。)に基づく基準地のうちA土地の近隣に所在する二か所(神奈川県足柄下郡箱根町二の平字南長尾1297番279及び同町湯本字白石下691番7)の基準地としての価格(以下「基準地価格」という。)の昭和57年から昭和59年までの間の上昇率の平均値は,別表第六のとおり,102.79%であるから,本件交換Ⅰ当時のA土地の1m2当たりの価額は,A土地取引事例における1m2当たりの売買価額60,405円を右基準地価格上昇率平均値102.79%で除して得た58,765円であると評価すべきであり,右価額にA土地の面積39,717.77m2を乗じて算出したA土地の価額は,2,334,014,754円となる。
(2) B土地の本件交換Ⅰ当時の価額
ア 原告東洋郵船及び原告由美子は,昭和48年以降本件交換Ⅰに至るまでの間に,B土地の近隣において,それぞれ別表第七の一及び二記載のとおり,土地の売買取引を行った(以下,別表第七の一記載の売買取引を「B土地算出事例」と,別表第七の二記載の売買取引を「B土地関連事例」という)。
イ B土地周辺地域においては,B土地関連事例のとおり,昭和48年ないし昭和50年頃,1m2当たり150,000円程度の価格で土地の売買取引が行われていたところ,B土地関連事例は,売買取引件数5件,買主は合計6社にのぼり,原告東洋郵船及び同由美子と右買主との間には何ら特殊な関係がなく,各売買取引における買主はいずれも不動産売買につき一定の知識と経験とを有している営利法人であって,右価格は,これらの営利法人が純粋な経済人として一定の経済的動機の下に決定した価格と認めることができるから,B土地周辺地域の土地については,右の当時,既に1m2当たり150,000円程度の合理的な市場価格が形成されていたことが明らかである。
ウa B土地,B土地算出事例に係る各土地並びにB土地関連事例に係る各土地のうち買主を千代田火災海上保険株式会社とする土地及び買主を株式会社諏訪精工舎外一社とする土地は,原告東洋郵船が昭和37年から所有していたもので,いずれも地続きの一団の土地であり,所在位置,形状,地勢,接面街路,供給処理施設,公法規制及び現況等は極めて類似している。そして,右各土地及びB土地の現況はいずれも山林であり,富士山及び箱根山系を眺望することのできる好位置に所在し,別荘地,保養所,ホテル用地等として同地域に残された唯一の土地といっても過言ではなく,極めて高い稀少性をもっている。
b B土地算出事例は,いずれも原告東洋郵船自身が本件交換Ⅰと極めて近接した時期に3名の第三者との間で行った売買取引であり,その三例においていずれも同一の価格が形成されたことは,同価格が極めて適正であることを示している。
c したがって,本件交換Ⅰ当時のB土地の1m2当たりの価額は,B土地算出事例における1m2当たりの価格199,000円と同額であると評価すべきであり,右価額にB土地の面積31,500m2を乗じて算出したB土地の価額は,6,268,500,000円となる。
エ 原告らは,後記五の1の(二)の(3)のウのとおり,被告らの主張するB土地の価額の評価においては,B土地算出事例のみを比較の対象として採用し,近隣地域又は同一需給圏内における類似の取引事例との比較を全く行っていないのであるから,取引事例比較法の基本原則に反するとか,取引事例比較法の正規の手法を用いて,B土地の近隣地域内の標準画地価格を算出すると1m2当たり67,000円となり,これと比較すると,B土地算出事例に係る売買価格は,その約三倍にも上るもので,特殊事情により市場価格を全く考慮しないで行われた取引と認めざるを得ないから,B土地の価額の評価に当たり,B土地算出事例を比較の対象として採用すること自体が不合理であるとか主張する。
しかし,前記のとおり,土地の価額を評価するに当たり,対象土地と位置,形状,地勢,接面街路,供給処理施設,公法規制及び現況等が酷似している土地について,評価時点に近い時期に売買取引が行われ,その取引が正常な取引の範囲内にあると認められるときは,右取引事例における売買価格を基礎として対象土地の価額を評価することが相当であり,このような取引事例が存在するにもかかわらず,必ずしも諸条件が類似しているとはいえない地域についてまで同一需給圏内の類似地域であるとして取引事例を収集し,地域的要因,個別的要因等の各種補正を施すことは,同一需給圏内や類似地域の判定に恣意を介在させることになり,また,各種補正にも恣意的要素を排斥し得ないことから,このようにして求められた価格が近隣地域の市場価格と乖離することが充分に考えられるのである。
さらに,B土地算出事例は,いずれも500,000,000円ないし1,000,000,000円に近い価格での取引であり,かかる取引を行う際に,営利法人である凸版印刷及び凸版不動産株式会社(以下,右二社を「凸版二社」という。)や精版不動産株式会社が周辺の取引事例や市場価格を考慮しないはずがないから,B土地算出事例は,これらの点を充分に考慮した上で価格が決定されたものと見るべきである上,原告らは,その主張に係る特殊事情について全く主張しないから,B土地の価額の評価に当たって,B土地算出事例を比較の対象とすることに,何ら不合理な点は存在しない。
オa なお,別表第七の一のB土地算出事例のうち,買主を凸版二社とする各売買契約については,いずれも昭和57年12月22日付で神奈川県知事から,国土法24条に基づき,契約を解除するか又は売買代金額を1m2当たり67,200円に引き下げるよう求める勧告がなされた(以下,右各売買契約を併せて「凸版二社との契約」と,右各契約に係る売買土地を併せて「本件勧告土地」と,右の神奈川県知事による勧告を「本件勧告」という。)。
b 国土法による土地売買等の契約(同法14条1項の「土地売買等の契約」をいう。以下同じ。)の規制の趣旨は,本来当事者間の自由意思によるべき土地売買等の契約につき,行政庁に取引の許可権限又は売買等の価格の是正若しくは売買等の解除を求める勧告権限を与え,土地の乱開発や投機的取引を防止し,もって総合的かつ計画的な国土の利用を図るというものである(同法1条)。
しかし,土地売買等の契約の締結を含む経済活動は本来市場原理に委ねられるべきものであり,行政法規によって限度を超えた規制をすることは結果的には歪んだ市場を形成する要因となるため,国土法は,規制区域(同法12条)と届出区域(同法23条以下)とを設け,規制区域内においては原則として土地売買等の契約の締結を禁止,これに違反してなされた契約を無効とする反面,届出区域内においては,一定面積を超えてなされる土地売買等の契約につき取引当事者に行政庁へ届出をすることを義務付けた上,行政庁に右契約に関し売買等の価格の是正又は契約の解除を当事者に勧告する権限を与えているのみであって,土地取引における契約自由の原則を尊重する立場に立っている。すなわち,同法24条の勧告制度は,土地売買等の契約行為そのものはあくまでも有効としながら,行政庁をして,契約当事者に価格の引下げ又は契約の締結中止を求めさせるというものであり,いうなれば,行政法規の具体的運用に当たる行政庁に,行政法規である同法の趣旨現実のため斡旋の努力義務を課しているに過ぎないものである。
そうすると,同法24条の勧告により,当然にその契約の効力が失われるものではなく,また,既にその地域で形成されている市場価格が直ちに右勧告による価格にまで引き下げられるものでもない。現に,別表第七の一の買主を精版不動産株式会社とする売買取引及び別表第七の二の買主を株式会社諏訪精工舎外一社とする売買取引は,本件勧告に示された価格をはるかに超えるものであるのもかかわらず,面積が5,000m2未満であるために,同法24条の勧告の対象とならず,有効かつ適法に成立している。
したがって,国土法の適用を免れるために意図的に分筆して一回的に売却するものでない限り,B土地を分筆して売却することも充分に可能であり,その際,当事者間の合意により本件勧告に係る価格を大幅に上回る価格で売買することに何らの問題もない。
c 課税は,その取引の経済的実質に着目し,取引当時における財貨の客観的価値に従って行われるべきところ,本件交換Ⅰ当時,既にその地域の正常価格として形成されていた1m2当たり199,000円の取引価格は,仮にその後の是正勧告により引き下げられたとしても,これにより移転した本件交換Ⅰの財貨の客観的価値に何らの消長をも来すものではない。右イのとおり,B土地の隣接地域及び近傍地の5,000m2未満の土地の取引につき,昭和48年頃から1m2当たり150,000円程度以上の価格が形成されていたこと及び本件課税の趣旨に照らすと,原告東洋郵船が本件交換Ⅰにより取得したB土地の客観的交換価値の総体を把握するために単位面積当たりの正常価格としてB土地算出事例の取引価格を採用することは,実質課税の原則を実現する上で当然のことである。
d 原告らは,後記五の1の(二)の(2)のとおり,本件勧告を受けたため凸版二社との契約を解除した旨主張するが,本件勧告土地の所有権登記は未だ凸版二社名義であるのみならず,解約に関する約定においては,凸版印刷株式会社分は総額1,023,000,000円余の売買代金に対して僅かに月々10,000,000円宛てを分割して返還する旨が定められているに過ぎず,凸版不動産株式会社分に至っては1,044,000,000円余の売買代金の返還が平成8年まで棚上げとされており,かつ,分割返済期間が約10年にも及ぶのに,利息の支払に関する定めが全くない上,本件勧告土地の固定資産税,特別土地保有税等は凸版二社が負担して損金に計上しており,かつ,その最終負担者が原告である旨が明確にされていない等の事情が存在し,このような事情に照せば,右解約は真意に基づかないものであるか,少なくとも,実質的には契約が有効に存続しているのと同様の経済的効果が生じているといえる。そして,このように,契約が有効に存続しているのと同様の状態が継続している以上,その経済的実質に着目し,凸版二社との契約を,B土地の価額の評価に当たって参考とすべき取引事例として採用することに何ら不都合はない。
カ なお,原告らは,本件交換Ⅰの契約を締結するに当たり,当初は,原告東洋郵船がA土地に静岡市井川字関ノ沢2031番所在の土地(地目保安林)及び同所2032番2所在の土地(地目保安林,右各土地の面積合計6,526,299m2。以下右各土地を併せて「静岡物件」という。)を加えて,原告ら5名所有のB土地と交換する旨を約定していた。したがって,本件交換Ⅰの契約当事者間においては,A土地とB土地との間には,静岡物件の価額に相当する価額差がある旨の認識のあったことが明らかである。
2 原告東洋郵船に対する更正により原告東洋郵船が新たに納付すべき法人税の額は3,328,740,000円(国税通則法118条3項により10,000円未満の端数切捨て)となるから,昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法65条1項により右税額に5/100の割合を乗じて得た166,437,000円の過少申告加算税を賦課した原告東洋郵船に対する賦課決定は適法である。
3(一) 原告東洋郵船の昭和57年1月から昭和60年12月までの各月別の源泉所得税の納付漏れ税額算出の経過は,別表第八のとおりであるから,同表記載の納付漏れ所得税額と同額の源泉所得税の納付告知をした本件各納税告知処分は適法である。
(二) 別表第八の各項目のうち,横井英樹に係る納付漏れ所得税額のうちの役員報酬支給額の認定利息額欄記載の金額は,右1の(二)の(2)のアのとおり,原告東洋郵船の横井英樹に対する貸付金と認められる本件仮払金等に対する利息額の計上漏れ額を横井英樹に対する役員報酬と認めて,これに対する源泉所得税の額を算出したものである。そして,本件仮払金等に対する受取利息計上漏れ額の算出に当たって,本件振替処理に伴う本件仮払金等の減少を認めることができないことは同イのとおりであるから,昭和57年1月から同年12月までの各月についての認定利息額欄記載の金額は,同ウの本件事業年度の受取利息計上漏れ額133,432,092円を12で除して得た額とし,また,昭和58年1月から昭和60年12月までの各月についての認定利息額欄記載の金額は,別表第九のとおり,原告東洋郵船の昭和58年1月1日から同年12月31日まで,昭和59年1月1日から同年12月31日まで,及び,昭和60年1月1日から同年12月31日までの各事業年度H・Y勘定の期首残高及び期末残高に,それぞれ本件振替処理に係る額を加算したものを期首残高及び期末残高として,原告東洋郵船と関連会社との間で授受される貸付金等の受取利息の額の計算方法に従い,右各事業年度ごとに期首残高と期末残高との合計額の1/2に年利率8%を乗じて得た額(当該事業年度の受取利息額)から,受取利息として未収計上された額を控除した額を受取利息計上漏れ額とし,これを12で除した額を当該事業年度中の各月の認定利息額欄記載の金額とした(ただし,1円未満の端数は各年の12月分に計上した)ものである。
4 本件各不納付加算税賦課決定は,本件各納税告知処分により原告東洋郵船が新たに納付すべきこととなった各月分の源泉所得税の額(ただし,昭和59年11月分については重加算税賦課決定の基礎とした部分942,500円を除いた額。なお,国税通則法118条3項により10,000円未満の端数切捨て)に,国税通則法67条1項により10/100の割合を乗じて得た額の不納付加算税を賦課したものであるから,適法である。
(63号事件)
1 被告玉川税務署長が本訴で主張する原告邦彦の昭和57年分の総所得金額及び分離課税の長期譲渡所得金額は次のとおりである。
(一) 総所得金額 15,212,846円
(二) 分離課税の長期譲渡所得金額
(1) 原告ら5名は本件交換Ⅰに及ぶまで所有期間10年を超えてB土地を共有していたところ,原告邦彦は,昭和57年分の所得税の確定申告に当たり,本件交換ⅠによるB土地の譲渡につき,所得税法58条1項所定の国定資産の交換の場合の譲渡所得の特例(以下「特例Ⅱ」という。)の適用を受けられるものとして,分離課税の長期譲渡所得金額を0円とした。
(2) しかしながら,特例Ⅱは,交換の時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額が,これらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超えるときは適用されない(所得税法58条2項)。そして,本件交換Ⅰにおける,譲渡資産であるB土地の交換時の価額は6,268,500,000円(1m2当たり199,000円)と,取得資産であるA土地の交換時の価額は2,334,014,754円(1m2当たり58,765円)とそれぞれ評価され,その差額3,934,485,246円がB土地の価額の21/100に相当する額を超えていることは,62号事件の抗弁1の(二)の(1)のエのとおりであるから,本件交換Ⅰについて特例Ⅱを適用することはできない。
(3) 右(2)のA土地の価額はB土地1/2に満たない著しく低い価額であるので,所得税法59条1項2号,所得税法施行令169条により,原告ら5名は,本件交換ⅠによりB土地をその交換時の価額である6,268,500,000円で譲渡したものとみなされる。そして,右価額を原告ら5名の共有持分により按分して算出した原告邦彦の分離課税の長期譲渡所得は,別表第一〇のとおり,3,493,022,100円となる。
(三) 原告邦彦に対する更正に係る総所得金額及び分離課税の長期譲渡所得金額は,右(一)の総所得金額及び(二)の(3)の分離課税の長期譲渡所得金額といずれも同額であるから,原告邦彦に対する更正は適法である。
2 原告邦彦に対する更正により,原告邦彦が新たに納付すべき所得税の額は,1,298,110,000円(国税通則法118条3項により10,000円未満の端数切捨て)となるから,昭和59年法律第5号により改正前の国税通則法65条1項により右税額に5/100の割合を乗じて得た64,905,500の過少申告加算税を賦課した原告邦彦に対する賦課決定も適法である。
(64号事件)
1 被告麻布税務署長が本訴で主張する原告智津子の昭和57年分の総所得金額及び分離課税の長期譲渡所得金額は次のとおりである。
(一) 総所得金額 1,950,000円
(二) 分離課税の長期譲渡所得金額
(1) 原告ら5名は本件交換Ⅰに及ぶまで所有期間10年を超えてB土地を共有していたところ,原告智津子は,昭和57年分の所得税の確定申告に当たり,本件交換ⅠによるB土地の譲渡につき,特例Ⅱの適用を受けられるものとして,分離課税の長期譲渡所得金額を0円とした。
(2) しかしながら,63号事件の抗弁1の(二)の(2)のとおり,本件交換Ⅰについて特例Ⅱを適用することはできない。
(3) 63号事件の抗弁1の(二)の(3)のとおり,原告ら5名は,本件交換ⅠによりB土地をその交換時の価額である6,268,500,000円で譲渡したものとみなされる。そして,右価額を原告ら5名の共有持分により按分して算出した原告智津子の分離課税の長期譲渡所得は,別表第一〇のとおり,1,041,232,650円となる。
(三) 原告智津子に対する更正に係る総所得金額は右(一)の総所得金額の範囲内であり,また,原告智津子に対する更正に係る分離課税の長期譲渡所得金額は,右(二)の(3)の分離課税の長期譲渡所得金額と同額であるから,原告智津子に対する更正は適法である。
2 原告智津子に対する更正により,原告智津子が新たに納付すべき所得税の額は,376,770,000円(国税通則法118条3項により10,000円未満の端数切捨て)となるから,昭和59年度法律第5号による改正前の国税通則法65条1項により右税額に5/100の割合を乗じて得た18,838,500円の過少申告加算税を賦課した原告智津子に対する賦課決定も適法である。
(65号事件)
1 被告雪谷税務署長が本訴で主張する原告路子の昭和57年分の総所得金額及び分離課税の長期譲渡所得金額並びに原告由美子の昭和57年分の分離課税の長期譲渡所得金額は次のとおりである。
(一) 原告路子の総所得金額 4,890,000円
(二) 原告路子及び原告由美子の分離課税の長期譲渡所得金額
(1) 原告ら5名は本件交換Ⅰに及ぶまで所有期間10年を超えてB土地を共有していたところ,原告路子及び原告由美子は,いずれも昭和57年分の所得税の確定申告に当たり,本件交換ⅠによるB土地の譲渡につき,特例Ⅱの適用を受けられるものとして,分離課税の長期譲渡所得金額を0円とした。
(2) しかしながら,63号事件の抗弁1の(二)の(2)のとおり,本件交換Ⅰについて特例Ⅱを適用することはできない。
(3) 63号事件の抗弁1の(二)の(3)のとおり,原告ら5名は,本件交換ⅠによりB土地をその交換時の価額である6,268,500,000円で譲渡したものとみなされる。そして,別表第一〇のとおり,右価額を原告ら5名の共有持分により按分して算出した原告路子の分離課税の長期譲渡所得は571,632,450円となり,原告由美子の分離課税の長期譲渡所得は372,751,850円となる。
(三) 原告路子に対する更正に係る総所得金額は右(一)の総所得金額の範囲内であり,原告路子に対する更正に係る分離課税の長期譲渡所得金額は右(二)の(3)の分離課税の長期譲渡所得金額と同額であるから,原告路子に対する更正は適法である。
原告由美子に対する更正に係る分離課税の長期譲渡所得金額は,右(二)の(3)の分離課税の長期譲渡所得金額と同額であるから,原告由美子に対する更正は適法である。
2 原告路子に対する更正により,原告路子が新たに納付すべき所得税の額は,200,720,000円(国税通則法118条3項により10,000円未満の端数切捨て)となるから,昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法65条1項により右税額に5/100の割合を乗じて得た10,036,000円の過少申告加算税を賦課した原告路子に対する賦課決定は適法である。
原告由美子に対する更正により,原告由美子が新たに納付すべき所得税の額は,126,170,000円(国税通則法118条3項により10,000円未満の端数切捨て)となるから,昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法65条1項により右税額に5/100の割合を乗じて得た6,308,500円の過少申告加算税を賦課した原告由美子に対する賦課決定も適法である。
(66号事件)
1 被告渋谷税務署長が本訴で主張する原告枝理子の昭和57年分の総所得金額及び分離課税の長期譲渡所得金額は次のとおりである。
(一) 総所得金額1,140,829円の損失
(二) 分離課税の長期譲渡所得金額
(1) 原告ら5名は本件交換Ⅰに及ぶまで所有期間10年を超えてB土地を共有していたところ,原告枝理子は,昭和57年分の所得税の確定申告に当たり,本件交換ⅠによるB土地の譲渡につき,特例Ⅱの適用を受けられるものとして,分離課税の長期譲渡所得金額を0円とした。
(2) しかしながら,63号事件の抗弁1の(二)の(2)のとおり,本件交換Ⅰについて特例Ⅱを適用することはできない。
(3) 63号事件の抗弁1の(二)の(3)のとおり,原告ら5名は,本件交換ⅠによりB土地をその交換時の価額である6,268,500,000円で譲渡したものとみなされる。そして,右価額を原告ら5名の共有持分により按分して算出した原告枝理子の分離課税の長期譲渡所得は,別表第一〇のとおり,471,435,950円となる。
(三) 原告枝理子に対する更正に係る総所得金額及び分離課税の長期譲渡所得金額は,右(一)の総所得金額及び(二)の(3)の分離課税の長期譲渡所得金額と同額であるから,原告枝理子に対する更正は適法である。
2 原告枝理子に対する更正により,原告枝理子が新たに納付すべき所得税の額は,162,750,000円(国税通則法118条3項により10,000円未満の端数切捨て)となるから,昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法65条1項により右税額に5/100の割合を乗じて得た8,137,500円の過少申告加算税を賦課した原告枝理子に対する賦課決定も適法である。
四 抗弁に対する認否
(62号事件)
1(一) 62号事件抗弁1の(一)のうち,別表第四の申告所得金額,加算額中の受取利息計上漏れ(横井邦彦外2名分),保険料否認,役員賞与否認及び過年度損益修正損否認の各金額並びに減算額中の役員報酬認容(横井邦彦外2名分),固定資産税等否認額過大,過年度損益修正益認容及び交際費損益不算入額過大計上の各金額は認め,その余は否認し,主張は争う。
(二)(1)ア 同(二)の(1)のアないしウは認める。
イ 同エのうち,特例Ⅰは交換による取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額がこれらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する額を超える場合には適用されないことは認め,その余は否認する。
ウ 同オは認める。
エa 同カのaのうち,A土地の交換直前の帳簿価額が104,685,308円であることは認め,その余の事実は否認し,主張は争う。
b 同bのうち,C土地の交換時の価額が502,570,520円であること及びその交換直前の帳簿価額が3,713,757円であることは認め,その余の主張は争う。
c 同cの主張は争う。
オ 同キの主張は争う。
(2)ア 同(2)のアは認める。
イ 同イのうち,本件振替処理のうちの関連会社振替処理が課税回避を目的とした架空のものであり容認できないことは否認し,その余は認める。
ウ 同ウのうち,昭和57年1月1日の本件仮払金等の額2,168,709,754円中に含まれる関連会社振替処理に係る計1,391,604,332円についての主張部分は否認し,その余は認める。
エa 同エの柱書のうち,本件債権譲渡が存在しないことは否認する。
b 同aは否認する。
c 同bのうち,原告東洋郵船の取締役会が本件債権譲渡につき決議を行っていないことは認め,その余は否認し,主張は争う。
d 同cのうち,横井英樹が昭和57年2月8日発生のホテルニュージャパン火災事故により同年11月18日業務上過失致死傷罪の被疑事実で逮捕され,引き続き昭和58年2月21日まで勾留されていたことは認め,その余は否認する。
e 同dのうち,日本産業が昭和57年12月31日付で関連会社振替処理に係る金額を含む横井英樹に対する昭和56年12月末日現在の債務の合計額1,122,469,614円を原告東洋郵船に対する債務に振り替える経理処理を行ったこと,昭和62年1月24日に日本産業が1,122,469,614円を横井英樹の預金口座に入金し,横井英樹が右入金に係る金額と同額を原告東洋郵船の預金口座に入金する処理をしたことは認め,その余は否認し,主張は争う。
オ 同オの主張は争う。
(3) 同(3)のうち,原告東洋郵船が横井英樹個人の家事使用人に対し支出した給料等11,016,000円を役員報酬として期末に振替計上したこと,本件事業年度において原告東洋郵船が横井英樹に対して支給すべき適正役員報酬額が年額25,200,000円であることは認め,その余は否認し,主張は争う。
(4) 同(4)の主張は争う。
(5)ア 同(5)の柱書の主張は争う。
イ 同アのうち,原告東洋郵船と関連会社との間で授受される貸付金等の受取利息の額の計算方法は認めるが,その余は否認し,主張は争う。
ウ 同イは否認し,主張は争う。
(6) 同(6)は否認し,主張は争う。
(三)(1) 同(三)の柱書のうち,土地の価格の鑑定評価の方式としては取引事例比較法を用いるのが最も適切であることは認め,その余の主張は争う。
(2)ア 同(1)のアは認める。
イ 同イのうち,A売渡土地がA土地の一部であることは認めるが,A売渡土地とA土地のうちA売渡土地を除く部分とが,本件交換Ⅰが行われた時点において,その性状,利用状況等が概ね同一であったことは否認する。
ウ 同ウのうち,主張の国土法に基づく二カ所の基準地の基準地価格の昭和57年から昭和59年までの間の上昇率の平均値が,別表第六のとおり,102.79%であることは認めるが,その余の事実は否認し,主張は争う。
(3)ア 同(2)のアは認める。
イ 同イ及びウはいずれも否認し,主張は争う。
ウ 同エの主張は争う。
エa 同オのaは認める。
b 同b及びcの主張は争う。
c 同dのうち,凸版二社との契約の解除が真意に基づかないこと,実質的には右契約が有効に存続しているのと同様の経済的効果が生じていることは否認し,主張は争う。
オ 同カのうち,原告らが本件交換Ⅰの契約を締結するに当たり,当初は原告東洋郵船がA土地に静岡物件を加えて,原告ら5名所有のB土地と交換する旨を約定していたことは認め,その余は否認し,主張は争う。
2 同2の主張は争う。
3(一) 同3の(一)のうち,別表第八の「横井英樹に係る納付漏れ所得税額」欄のうちの役員報酬支給額の「その他」の欄,「(C)役員賞与認定額」欄,「(D)Cに対する所得税額」欄及び「(E)納付済所得税額」欄並びに「(G)横井邦彦に係る納付漏れ所得税額」欄,「(H)横井裕彦に係る納付漏れ所得税額」欄及び「(I)横井路子に係る納付漏れ所得税額」欄記載の各金額は認め,その余は否認し,主張は争う。
(二) 同(二)のうち,本件振替処理に係る金額のうちの関連会社振替処理に係る計1,391,604,332円についての主張部分は否認し,その余は認める。
4 同4の主張は争う。
(63号事件)
1(一) 63号事件抗弁1の(一)は認める。
(二)(1) 同(二)の(1)は認める。
(2) 同(2)のうち,特例Ⅱは交換の時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額が,これらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超えるときは適用されないことは認め,その余は否認し,主張は争う。
(3) 同(3)のうち,別表第一〇の原告邦彦の共有持分は認め,その余は否認する。
(三) 同(三)の主張は争う。
2 同2の主張は争う。
(64号事件)
1(一) 64号事件抗弁1の(一)は認める。
(二)(1) 同(二)の(1)は認める。
(2) 同(2)の主張は争う。
(3) 同(3)のうち,別表第一〇の原告智津子の共有持分は認め,その余は否認する。
(三) 同(三)の主張は争う。
2 同2の主張は争う。
(65号事件)
1(一) 65号事件抗弁1の(一)は認める。
(二)(1) 同(二)の(1)は認める。
(2) 同(2)の主張は争う。
(3) 同(3)のうち,別表第一〇の原告路子及び原告由美子の各共有持分は認め,その余は否認する。
(三) 同(三)の主張は争う。
2 同2の主張は争う。
(66号事件)
1(一) 66号事件抗弁1の(一)は認める。
(二)(1) 同(二)の(1)は認める。
(2) 同(2)の主張は争う。
(3) 同(3)のうち,別表第一〇の原告枝理子の共有持分は認め,その余は否認する。
(三) 同(三)の主張は争う。
2 同2の主張は争う。
五 原告らの主張及び再抗弁
1 A土地及びB土地の価額について
(一) 本件交換Ⅰ当時のA土地の価額
(1) A土地は,一部平坦地部分を含む緩やかな傾斜地である有効宅地部分がその面積の約50%程度を,須雲川に至る急傾斜地ないし崖地がその北側一帯の約40%程度を,公衆用道路(別表第五の番号1,2及び9の各土地のそれぞれ全部並びに同表の番号7及び10の各土地のそれぞれ一部)並びに河川敷(230番14及び230番23の各土地を分筆した後の同表の番号13の土地(面積4,179m2)の大部分)がその面積の約10%程度をそれぞれ占めるという形状を成しており,このうち,急傾斜地ないし崖地部分の価値は有効宅地部分の価値の5割程度,公衆用道路及び河川敷部分の価値は有効宅地部分の価値の1割程度である。
(2) 原告ら5名が昭和59年9月29日にしたA土地取引事例の対象であるA売渡土地は,A土地のうちの有効宅地部分に存し,かつ,公道からの進入道路に沿った地形の良好な土地である。
(3) したがって,本件交換Ⅰ当時のA土地全体の価額を,A土地取引事例に係る売買価格である1m2当たり60,405円を基礎とし,これに時点修正を加えたのみで1m2当たり58,765円とした被告らの評価が合理性を欠くことは明らかである。右(1)及び(2)の事情を総合考慮すると,本件交換Ⅰ当時のA土地全体の価額は,2,084,390,000円(1m2当たり52,480円)と評価される。
(二) 本件交換Ⅰ当時のB土地の価額
(1) 土地売買等の契約を締結する場合には,契約当事者は,当該契約に係る土地の面積が国土法23条2項1号所定の一定の面積未満であるときを除き,原則として同条1項所定の事項を都道府県知事に届け出る義務があり,また,都道府県知事から当該土地売買等の契約に係る売買等の価格が著しく適正を欠く等として同法24条に基づく勧告を受けた場合には,当該勧告に基づいて講じた措置の報告を求められることになる。そして,右の届出又は求められた報告を怠った場合にはそれぞれ刑事責任を問われ,さらに,右の勧告に従わなかったときは,その旨及びその勧告の内容を公表されることになるから,土地売買等の契約の当事者は,実際上,同法24条に基づく勧告があった場合には,その勧告の内容に従わざるを得ず,勧告に係る価格を超える価格で土地売買等の契約を締結することは事実上不可能である。
(2) B土地算出事例のうち凸版二社との契約については,神奈川県知事から,国土法24条に基づき,契約を解除するか又は売買代金額を1m2当たり67,200円に引き下げるよう求める本件勧告がなされた。凸版二社との契約に係る本件勧告土地の面積はいずれも国土法23条2項1号所定の面積(B土地及びその近隣においては5,000m2)未満であったが,右各売買契約は,本来5,000m2以上の面積の土地を目的とする1個の売買契約であったのを,国土法による規制を潜脱する意図で,2個の売買契約に分けた上,届出をしなかったものであり,そのことが露見して本件勧告に至ったものである(なお,B土地算出事例のうち買主を精版不動産株式会社とする売買取引及びB土地関連事例に係る各売買取引はいずれも売買土地の面積が5,000m2未満であったため,同条に基づく勧告はされていない。)。原告東洋郵船と凸版二社とは,本件勧告を受けたために,昭和58年4月12日付で凸版二社との契約を解除した(ただし,原告東洋郵船が売買代金の返還を完了するまでの間,右返還債務を担保するため,本件勧告土地の登記名義は凸版二社に留保されている。)
B土地は,凸版二社との契約に係る本件勧告土地の隣接地で,5,000m2以上の面積を有する土地であり,かつ,接道条件等が本件勧告土地よりも劣る土地であるから,本件交換Ⅰ当時において,B土地につき1m2当たり67,200円を超える価格で売買等の契約をしようとすれば,同法24条に基づく勧告を受けたであろうことは明らかであり,右のような価格で売買契約を締結することは事実上不可能であった。
そして,右の事情を考慮すれば,本件交換Ⅰ当時のB土地の価額は,1,823,850,000(1m2当たり57,900円)と評価することが相当である。
(3) 被告らは,本件交換Ⅰ当時の価額を,B土地算出事例における売買価格と同額である1m2当たり199,000円と評価すべきである旨主張し,その評価額を前提として,原告東洋郵船に対しては,特例Ⅰの適用を否認してB土地の受贈益の課税を主張し,また,原告ら5名に対しては,特例Ⅱの適用を否認してB土地のみなし譲渡益の課税を主張するが,右評価額は次のとおり誤りである。
ア みなし譲渡益の課税及び受贈益の課税は,実際に対価が授受されて収益が実現している場合のこれに対する課税(対価課税)ではなく,正常な対価による取引をした者との間の課税の公平を維持するために,正常な対価が授受されてこれに係る収益が生じたものと擬制して課税するものであるから,この場合の正常な対価とは,誰でも正常な状態で実現することのできる価額でなければならない。しかるに,被告ら主張のB土地の評価額は,本件勧告に係る価格,すなわち,国土法24条1項1号の「土地に関する権利の相当な価額」の約3倍にも当たる著しく不適正なものであり,正常な対価とは到底言い得ないものであるばかりでなく,右(1)及び(2)のとおり,もしその価格によって売買等の契約を締結しようとすれば,国土法違反の犯罪に当たるか,又は同法による勧告に従わない旨の公表をされることを覚悟しなければならず,実際上それによっては売買等の契約を締結することができない実現不可能な価額であって,この点からも,正常な対価ということはできない。
イ 被告らは,国土法の適用を免れるために意図的に分筆して一回的に売却するものでない限り,B土地を分筆して売却することも充分に可能であり,その際,当事者間の合意により本件勧告に係る価格を大幅に上回る価格で売買することに何らの問題もない旨主張する。しかし,本件交換Ⅰにおいて,国土法による勧告の対象となる面積を有する一団の土地のまま交換契約の目的となったB土地の価額を評価するに当たって,これを同法による勧告の対象とならない面積に分筆して取引するものとして評価することは,同法による規制を潜脱する脱法行為を行うことを前提とすることにほかならず,評価の原則に反することは明らかであるから,右主張は失当である。
ウ 不動産の時価評価方式として最も適切とされている取引事例比較法においては,近隣地域又は同一需給圏内の類似地域における類似の取引事例を収集し,これらの価格に事情補正及び時点修正を行い,かつ,対象不動産との地域要因及び個別要因の比較を行って,対象不動産の試算価格を求めるものである。なお,不動産取引においては,それに介在する特殊な事情によって不動産の客観的な交換価値からかけ離れた取引価額が形成されることも少なくないので,かかる取引事例を比較の対象として採用する場合には,正常な取引事情の下で成立したであろう価格に修正することが必要であり,これが事情補正であるが,当該取引事例における価格が地域の価格水準から余りにもかけ離れていて,補正することが不可能であると認められる場合には,当該取引事例は比較の対象として採用してはならないことになる。
しかるところ,被告らの主張するB土地の価額の評価においては,原告東洋郵船が行ったB土地算出事例のみを比較の対象として採用し,近隣地域又は同一需給圏内における類似の取引事例との比較を全く行っていないのであるから,取引事例比較法の基本原則に反するものである。
のみならず,取引事例比較法の正規の手法を用いて,B土地の近隣地域内の標準画地価格を算出すると1m2当たり67,000円となる(右価格は本件勧告にかかる価格である1m2当たり67,200円とほぼ一致する。)。これと比較すると,B土地算出事例に係る売買価格は,その約3倍にも上る著しくかけ離れたものであり,特殊事情により市場価格を全く考慮しないで行われた取引と認めざるを得ないから,B土地の価額の評価に当たり,B土地算出事例を比較の対象として採用すること自体が不合理である。
(4) なお,被告らは,原告らが本件交換Ⅰの契約を締結するに当たり,当初,原告東洋郵船がA土地に静岡物件を加えて,原告ら5名所有のB土地と交換する旨を約したことを取り上げ,原告らがA土地とB土地との間には静岡物件の価額に相当する価額差がある旨の認識をしていたと主張するが,保安林である静岡物件の価額はさほどのものではなく,原告らは,特例Ⅰにおいて,交換差額として許容されている交換物件のうちのいずれか多い価額の20/100の範囲内で静岡物件を付加しようとしたに過ぎないから,被告らの右主張は失当である。
2 関連会社振替処理について
(一) 横井英樹は,昭和57年12月31日,同人の日本産業に対する貸付金1,091,754,304円及び同人の東洋不動産に対する貸付金299,850,028円,合計1,391,604,332円の貸付金債権を,同人の原告東洋郵船に対する本件仮払金等の返還債務のうち右同額の弁済に代えて,原告東洋郵船に譲渡する本件債権譲渡を行った。その結果,原告東洋郵船の横井英樹に対する本件仮払金等の債権のうち1,391,604,332円が消滅し,他方,日本産業に対する貸付金債権として1,091,754,304円を,東洋不動産に対する貸付金債権として299,850,028円を新たに取得したので,原告東洋郵船は,これに伴う経理処理として,関連会社振替処理をしたものであり,これが架空のものでないことは明らかである。
(二) 被告麹町税務署長は,本件債権譲渡が行われたこと及び債権譲渡の通知承諾がなされたことを証するに足りる資料が存在しない旨主張するが,原告東洋郵船は,右(一)のとおり,本件債権譲渡に伴って,横井英樹に対する本件仮払金等に係る勘定から1,391,604,332円を減額する一方,日本産業勘定の借方に1,091,754,304円を,東洋不動産勘定の借方に299,850,028円をそれぞれ計上する関連会社振替処理をしており,また,日本産業及び東洋不動産は,それぞれ,横井英樹からの仮受金債務を減額し,東洋郵船に対する債務を計上する振替処理をしている。
原告東洋郵船及び日本産業は,いずれも横井英樹及びその一族を株主とする同族会社であり,従前から巨額の資金融通を常時行ってきたが,それについて貸借の証書を作成したことはなく,両社の記帳のみで処理をしてきた。したがって,原告東洋郵船,日本産業及び東洋不動産において本件債権譲渡に伴う経理処理がされていることが,本件債権譲渡が行われたこと並びにこれについて日本産業及び東洋不動産の承諾があったことを証するに足りる充分な資料というべきである。
(三) また,被告麹町税務署長は,日本産業が昭和56年1月1日から同年12月31日までの事業年度において,3,200,000,000円を超える未処理損失を計上しており,原告東洋郵船が同社に対する債権を譲り受けたとしても,これを回収することは著しく困難であるとして,本件債権譲渡による代物弁済が原告東洋郵船と横井英樹との利益相反行為に当たり,取締役会の承認を要すると主張する。
しかし,債務者の資力は,単に一事業年度の未処理損失の額だけでなく所有資産の処分価額等をも総合考慮して判定されるべきところ,本件債権譲渡のなされた当時,日本産業は不動産,有価証券等多くの資産を所有しており,これらの所有資産の内容を総合した資力には全く問題がなかったから,本件債権譲渡による代物弁済は原告東洋郵船と横井英樹との利益相反行為に当たるものではないし,原告東洋郵船及び横井英樹は,このような日本産業の資力の実態を知悉していたから,取締役会による承認の手続を取らなかったのである。
なお,本件債権譲渡がなされてから4年後である昭和61年12月31日までに,日本産業は,本件振替処理に係る分を含めた原告東洋郵船に対する債務の全部を完済した上,逆に15,800,000,000円余を貸し越しており,この事実は,本件債権譲渡のなされた当時の日本産業の資力に何ら問題のなかったことを裏付けている。
(四) 因みに,右(二)のとおり,原告東洋郵船と日本産業とは,従前から記帳処理のみで巨額の資金融通を行っており,これに基づいて法人税の確定申告をしているが,これまで,被告麹町税務署長から資金融通を証する貸借の証書がないとの指摘を受けたことはない。
また,本件で,麹町税務署長により原告東洋郵船の横井英樹に対する貸付金債権と認定されている本件仮払金等にしても,貸借の証書はなく,取締役会の承認決議もない。
このように,被告麹町税務署長は,これまで,貸借の証書や取締役会決議のないことを一切問題とせずに課税をしてきており,現に本件においても課税をしているのに,税額を減少させる原因となる本件債権譲渡についてだけは,証書や取締役会決議のないことを理由に否認しているのであって,このような取扱いは明らかに矛盾していて許されない。
(五) 被告麹町税務署長は,横井英樹がホテルニュージャパン火災事故により昭和57年11月18日に逮捕され,引き続き昭和58年2月21日まで勾留されていたから,関連会社振替処理が行われた昭和57年12月31日当時,同人が本件債権譲渡の意思表示を行い得る状況にはなかったとも主張する。
しかし,原告東洋郵船は,昭和57年10月21日に調査担当官から横井英樹に対する本件仮払金等について認定利息の課税をする旨を告げられ,対策を検討した結果,同年11月18日までの間に,横井英樹から本件債権譲渡の意思表示を受け,これに基づいて本件事業年度の期末日に本件振替処理をしたものであるから,右の麹町税務署長の主張は失当である。
(六) また,被告麹町税務署長は,昭和62年1月24日に日本産業が1,122,469,614円を横井英樹の預金口座に入金し,横井英樹が右入金に係わる金額と同額を原告東洋郵船の預金口座に入金する処理をしたことを捉らえ,本件債権譲渡に係る横井英樹の日本産業に対する債権及び代物弁済によって消滅した横井英樹の原告東洋郵船に対する債務が,少なくとも昭和62年1月24日までは存在していた旨主張する。
しかしながら,右各入金処理は,原告東洋郵船が東京国税局の係官から,資金移動がなければ関連会社振替処理は認められない旨告げられて,やむを得ずなしたものである。すなわち,本来,債権譲渡は現実の資金移動を直ちに伴うものではない。しかるに,東京国税局の係官は原告東洋郵船に対し,現実の資金移動がなければ関連会社振替処理を認めることはできない旨を告げたので,原告東洋郵船は,右指示に納得できなかったものの,横井英樹に係る誤った認定利息に基づく課税が続くことを避けるために,小切手を用いて右各入金処理を行い,形式上資金移動が行われた外形だけを作出した。右のとおりであるから,右処理を根拠として本件債権譲渡が存在しないとすることはできない。
(七) 被告麹町税務署長は,昭和57年12月31日に関連会社振替処理に係る原告東洋郵船の横井英樹に対する本件仮払金等の債権が消滅していたとしても,右債権は,本件事業年度の全期間を通じて存在していたことになるから,原告東洋郵船の本件事業年度の法人税の計算上,収益に計上すべき受取利息計上漏れ額の計算には影響を及ぼすものではない旨主張する。
しかし,関連会社に対する貸付金等に係る受取利息の額について,日々の積数残高計算をすることは実務上極めて困難であるので,原告東洋郵船は,従前から当該債権勘定の期首及び期末残高の合計額を2で除した平均残高に8%の利率を乗じて算出する取扱いをしていたのであり,関連会社振替処理に基づく経理処理においても,この取扱いに従って,横井英樹に対する本件仮払金等に係る勘定の期首残高と本件振替処理に係る額を減額した後の期末残高とを合計し,これを2で除した金額に8%の利率を乗じて未収受取利息額を算出したのである。被告麹町税務署長の主張は,かかる従前からの取扱いを無視する誤りを犯している。
(八) 以上のとおり,本件仮払金等について本件債権譲渡に伴う関連会社振替処理が認められるべきである。そして,これを前提とする本件事業年度における原告東洋郵船の受取利息計上漏れ額(横井英樹分)及び過大役員報酬否認額は別表第一一のとおりであり,また,昭和57年1月から昭和60年12月までの各月別の源泉所得税の納付漏れ税額(横井英樹分)は別表第一二のとおりである。
3 再抗弁(法人税法50条4項のやむを得ない事情の存在)
(一) 特例Ⅰは,法人税の確定申告書に法人税50条1項による圧縮額の損金算入に関する明細の記載がない場合であっても,その記載がなかったことにつきやむを得ない事情のある場合には適用される(同条4項)。そして,右のやむを得ない事情があったかどうかは,法人税の法定申告期限時を基準として判断されるべきである。
しかるところ,原告東洋郵船が提出した本件事業年度の法人税の確定申告書に本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱについて明細の記載がなかったことについては,右法人税の法定申告期限である昭和58年2月末日当時において,次のとおり,やむを得ない事情が存在した。
(二)(1) 原告東洋郵船において本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る実務を担当したのは,当時不動産部長であった渡部高壽(以下「渡部不動産部長」という。)であり,その関係書類は,代表取締役である横井英樹の専用金庫に保管されていた。なお,原告東洋郵船においては,各取引の都度,関係書類を経理担当者に回付する処理をしないで,法人税の確定申告期限にまとめて右処理をする慣行であった。
(2) ところで,昭和57年2月8日にホテルニュージャパン火災事故が発生し,渡部不動産部長及び原告東洋郵船において法人税の確定申告の実務を担当していた経理部長井原弘は,昭和58年2月当時,右事故の遺族対策,テナント補償等の事務処理に忙殺されていて,原告東洋郵船の通常の業務を処理することはできなかった。しかも,右事件によって,昭和57年11月18日に横井英樹が業務上過失致死傷罪の被疑事実によって逮捕された上,引き続き昭和58年2月21日まで勾留され,同日釈放されたが,その後は勾留中に悪化した持病の療養のため船原温泉に滞在せざるを得ない状況で,右逮捕勾留期間中及び釈放後も,横井英樹から本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る具体的な指示,連絡等を原告東洋郵船の担当者にすることも不可能であった。
(3) 右のような状況に加え,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱとも,交換差金の授受がなく,したがって資金の動きを伴っていなかったので,原告東洋郵船の本件事業年度の法人税の確定申告の事務を行った担当者は,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る明細の記載に必要な事項を知ることができず,右の記載をすることができなかった。
(三) 右のとおり,原告東洋郵船が提出した本件事業年度の法人税の確定申告書に,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱについて明細の記載がなかったのは,右申告に係る法定申告期限当時,ホテルニュージャパンの火災事故のため,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱの実務担当者や代表取締役自身がその事故処理に忙殺され,あるいはその事故のために勾留されていて必要な連絡をとることができなかったためである。そして,ホテルニュージャパンの火災事故は,原告東洋郵船の通常の業務とは何の関係もない全くの突発事故であって,右明細の記載ができなかったことが,原告東洋郵船の通常の業務遂行過程における連絡の不手際などによるものでないことは明らかであるから,右明細の記載がなかったことについては,やむを得ない事情が存在したものというべきである。
六 原告らの主張及び再抗弁に対する認否
1(一) 原告らの主張及び再抗弁1の(一)は否認し,主張は争う。
(二)(1) 同(二)の(1)のうち,土地売買等の契約の当事者は,国土法24条に基づく勧告があった場合にはその勧告の内容に従わざるを得ず,勧告に係る価格を超える価格で土地売買等の契約を締結することが事実上不可能であることは否認し,その余は認める。
(2) 同(2)のうち,凸版二社との契約について神奈川県知事から本件勧告がなされたこと,B土地及びその近隣において国土法23条2項1号所定の面積は5,000m2未満であること,凸版二社との契約に係る本件勧告土地の面積はいずれも5,000m2未満であったが,右各売買契約は国土法による規制を潜脱する意図でされたこと,B土地算出事例のうち買主を精版不動産株式会社とする売買取引及びB土地関連事例に係る各売買取引はいずれも売買土地の面積が5,000m2未満であったため,同条に基づく勧告はされていないこと,B土地が凸版二社との契約に係る本件勧告土地の隣接地であることは認め,その余は否認し,主張は争う。
(3) 同(3)は否認し,主張は争う。
(4) 同(4)は否認し,主張は争う。
2 同2の主張は争う。
3(一) 同3の(一)のうち,法人税の確定申告書に法人税法50条1項の明細の記載がない場合であっても,その記載がなかったことにつきやむを得ない事情のある場合には特例Ⅰが適用されることは認め,その余は否認し,主張は争う。
(二)(1) 同(二)の(1)のうち,渡部不動産部長が本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る実務を担当したことは認め,その余は否認する。
(2) 同(2)のうち,昭和57年2月8日にホテルニュージャパン火災事故が発生したこと,右事件によって昭和57年11月18日に横井英樹が業務上過失致死傷罪の被疑事実によって逮捕された上,引き続き昭和58年2月21日まで勾留され,同日釈放されたことは認め,その余は否認する。
(3) 同(3)は否認する。
(三) 同(三)は否認し,主張は争う。
(四)(1) 特例Ⅰは,固定資産が長期間にわたって法人の事業の用に供されるものであって,同一種類の固定資産を交換したような場合は,経済的にみれば,同一資産が継続して保有されているのと同様であると見られること等から,一定の要件に該当する交換について,本来発生している交換差益につき課税を繰り延べることを認めようとするものである。そして,法人税法50条3項が特例Ⅰの適用を受けるために明細の記載を要するものとしているのは,特例Ⅰの要件に該当する交換があった場合に,特例Ⅰの適用を受けて交換差益につき課税を繰り延べることとするか否かを法人の選択に委ねることとし,法人が同項の明細を確定申告書に記載して,特例Ⅰの適用を受けることを自ら明らかにした場合に限り,その適用を認めることにするという趣旨であるから,右の明細の記載は,法人が特例Ⅰの課税の繰延べを受けることを選択したことを明らかにし,それを前提として画一的にその法人の所得金額や法人税額等が決定される基準となるものである。したがって,同条4項の明細の記載がなかったことにつきやむを得ない事情があるというためには,右明細の記載がないことについて単に法人の主観的な事情が存在するのみで足りず,その責めに帰すべからざる事由により,法人が明細の記載をしようとしても,これをすることが不可能であったと認められるような客観的な事情が存することを必要とするというべきである。
(2) しかるところ,右のやむを得ない事情に関して,原告東洋郵船の主張するところは,交換の関係書類を代表取締役横井英樹の専用金庫に保管していたところ,同人が逮捕勾留されて,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに関する指示連絡等を原告東洋郵船の担当者にすることができなかったとか,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱの実務を担当した渡部不動産部長がホテルニュージャパン火災の事後処理に多忙で明細の記載ができなかったとかいうものである。しかし,仮にそうであるとすれば,本来,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱの取引の結果は原告東洋郵船の会計帳簿等に記載されなければならず,そのためには,取引後速やかにその関係書類を経理担当者に回付して適切な処理がされなければならないのに,これを怠って,右関係書類を漫然と横井英樹の専用金庫に保管していたことになり,あるいは,渡部不動産部長がいかに多忙であったとしても,法人税の申告の担当者に本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る申告の指示を行う程度のことは充分に可能であったというべきであるのに,これをしなかったということになるから,結局,特例Ⅰの適用に関する明細の記載をしなかったのは,原告東洋郵船の関係書類保管方法の不適切ないし部内の連絡の不行き届きによるものであって,単なる会社内部の不手際に過ぎないから,法人税法50条4項のやむを得ない理由に当たらないことは明らかである。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから,これを引用する。
理由
第一62号事件について
一 62号事件請求の原因1及び同2の各事実は当事者間に争いがない。
二 原告東洋郵船に対する更正及び賦課決定の適否について
1 62号事件抗弁1の(一)のうち,別表第四の申告所得金額,同表の加算額中の受取利息計上漏れ(横井邦彦外2名分),保険料否認,役員賞与否認及び過年度損益修正損否認の各金額並びに同表の減算額中の役員報酬認容(横井邦彦外2名分),固定資産税等否認額過大,過年度損益修正益認容及び交際費損益不算入額過大計上の各金額については,当事者間に争いがない。
2 土地譲渡益計上漏れ及び受贈益計上漏れに係る金額について
(一) 62号事件抗弁1の(二)の(1)のアないしウの各事実は当事者間に争いがない。
(二) 特例Ⅰは,交換時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額がこれらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超える場合には,適用されないところ(法人税法50条3項),被告は,本件交換Ⅰについて,B土地の交換時の価額は6,268,500,000円(1m2当たり199,000円)と,A土地の交換時の価額は2,334,014,754(1m2当たり58,765円)とそれぞれ評価されるから,その差額は3,934,485,246円であり,右差額はB土地の交換時の価額の20/100に相当する額を超えている旨主張する。
そこで,まず,A土地の価額及びB土地の価額について順次検討する。
(1) A土地の価額について
ア 62号事件抗弁1の(三)の(1)のアの事実及び同イの事実のうちA売渡土地がA土地の一部であることは当事者間に争いがない。
イ ところで,土地の価格を評価するには,一般的には,対象土地の近隣地域又は同一需給圏内の類似地域において行われた対象土地と類似の土地の取引事例を収集,選択し,これらの取引事例の価格に事情補正及び時点修正を行い,かつ,地域的要因及び個別的要因の比較を行って対象土地の資産価格を求める取引事例比較法の手法を採用することが合理的であるといえる。この場合に,右の取引事例に係る土地と対象土地との間における位置,形状,地勢,接面街路,供給処理施設,公法規制及び現況等の諸条件の相違又は取引時点の相違に由来する価額の差については,地域的要因及び個別的要因について補正や時点修正を施すことによってこれを解消するのであり,各取引に内在する個別的な事情に由来する価格の高低はその事情に応じた補正を施すことによってこれを解消するのであるが,このような修正や補正については恣意的要素の介在を完全に排除することが不可能であり,かつ,修正又は補正の幅が広がると,それに伴って右の意思的要素の介在する度合いが大きくなって,対象土地の評価額とされる額がより真実から離れることになることは経験則上明らかである。したがって,右の比較されるべき取引事例は,できる限り,対象土地と位置,形状,地勢,接面街路,供給処理施設,公法規制及び現況等の諸条件が合致し,かつ,取引時点が近接し,さらに,価格の決定に個別的事情が寄与した度合いの少ないものを収集,選択するのが望ましい。そして,対象土地の一部について評価時点に近い時期に売買取引が行われ,かつ,その売買対象となった部分とそれ以外の部分とが,地勢,現況や利用状況などの点において概ね同一であり,しかも,その売買取引が正常な価格による合理的,経済的な取引であって個別的事情の寄与する度合いが僅少であると認められるときには,右取引事例を比較されるべき対象として採用し,その売買価格を基礎として対象土地の価額を評価することが,右に述べた見地からして合理的であるといえる。
ウ 右(一)及び右(二)の(1)のアの争いのない事実に,成立に争いのない甲第4号証,乙第9ないし第29号証,第44号証の2,原本の存在及びその成立に争いのない乙第35号証の1,2,昭和56年6月3日に建設省国土地理院がA土地付近を撮影した航空写真であることに争いのない乙第44号証の1,証人大津昌義の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば,① A土地は,概ね南側の県道(湯本元箱根線)と北側の須雲川とに挟まれた不整形の土地で,本件交換Ⅰの行われた昭和57年6月ないしA土地取引事例のあった昭和59年9月当時は,ほぼ全体が山林であったこと,② A売渡土地,A土地の東側部分に所在する面積合計9,932.04m2(A土地全体の面積のうちの約25%)の一団の土地であって,その北側の須雲川に面した面積の割合で約1/2程度を占める部分は概ね平坦地であるが,南側の県道に沿った残余の部分は右県道から須雲川に向けて下がる崖地ないし急傾斜地であること,③ A土地のうちA売渡土地を除く部分は,そのごく一部がA売渡土地の北側,東側及び南側の部分等に細い帯上の土地として所在し,また,道路敷地や河川の流域となっている部分も僅かながら存在するものの,大部分はA土地の西側部分に所在して一団の土地を構成し,概ねその中心から南側の県道に至る部分が県道とほぼ同じ高さの平坦地であり,その北側は須雲川に落ち込む崖地ないし急傾斜地となっているが,平坦地とそれ以外の崖地等との比率はA売渡土地と大差なく,また,A売渡土地よりも高い位置にあるので,眺望という点ではA売渡土地よりも優れていること,以上の事実を認めることができる。
そして,右事実関係によれば,A土地取引事例のあった昭和59年9月当時,A土地のうちA売渡土地とそれを除く部分とは,各々のうちの平坦地部分と崖地ないし急傾斜地部分の比率がほぼ同じであり,A売渡土地を除く部分には価額を引き下げる要因となる道路敷地や河川の流域となっている部分が存在するが,その面積は僅少である上,眺望の点ではA売渡土地を除く部分の方が優れていることを考慮すると,A土地のうちのA売渡土地とそれを除く部分とは,全体として,地勢,現況や利用状況などの点において概ね同一であると認めることができる。
エ 62号事件抗弁1の(三)の(1)のイの事実のうち,A土地取引事例の買受人である東京石亭株式会社及びエイチ・ティー・エンタープライズ株式会社は,いずれも原告と特殊な関係にはない営利法人であって,A土地取引事例の取引価額が正常な価額であると認められることは,原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。右事実によれば,A土地取引事例の取引価額の決定に,個別的事情の寄与した度合は僅少であるものと認められる。
オ そうすると,A土地取引事例の売買価格を基礎としてA土地の価額を評価することは合理的であるものというべきところ,62号事件抗弁1の(三)の(1)のウの事実のうち,主張の国土法に基づく2か所の基準地の基準地価格の昭和57年から昭和59年までの間の上昇率の平均値が,別表第六のとおり,102.79%であることは当事者間に争いがないから,本件交換Ⅰ当時のA土地の1m2当たりの価額は,A土地取引事例における1m2当たりの売買価格60,405円を右基準地価格上昇率平均値102.79%で除して得た58,765円であると評価すべきであり,A土地全体の価額は,右の1m2当たりの価額にA土地の面積39,717.77m2を乗じて得た2,334,014,754円であるものと認められる。
カ なお,前掲甲第4号証は,A土地取引事例を含む6例の取引事例等に時点修正,事情補正並びに地域的要因及び個別的要因に係る補正を加えて,A土地近隣地域内の標準的な中間画地の価格を求めた上,右価格にさらにA土地の個別的要因に基づく補正を加えてA土地の価額を求める手法により,A土地の価額を2,084,390,000円と鑑定評価するものであるが,右6例を選択した理由やこれに加えた各種補正の基礎となる事情などは必ずしも明らかではない上,右のとおり,A土地の価額の評価に当たっては,A土地取引事例の売買価額を基礎としてこれをすることが合理的であると考えられるから,同号証の鑑定評価の結果はこれを採用しない。
(2) B土地の価額について
ア 62号事件抗弁1の(三)の(2)のアの事実は当事者間に争いがない。
イ 成立に争いのない甲第3号証(後記措信しない部分を除く。),乙第1ないし第6号証,第34号証,第45号証の2,第60号証,原本の存在及びその成立に争いのない乙第36号証の1,2,第48号証,昭和59年5月3日に建設省国土地理院がB土地,B土地算出事例に係る各土地並びにB土地関連事例に係る各土地のうち買主を千代田火災海上保険株式会社とする土地及び買主を株式会社諏訪精工舎外一社とする土地の付近を撮影した航空写真であることに争いのない乙第45号証の一,証人大津昌義の証言並びに弁論の全趣旨によれば,① B土地,B土地算出事例に係る各土地並びにB土地関連事例に係る各土地のうち買主を千代田火災海上保険株式会社とする土地及び買主を株式会社諏訪精工舎外一社とする土地は,いずれも地続きの一団の土地で,優良な別荘,保養所地域である箱根仙石原地区に所在し,眺望などの点から,別荘や保養所,ホテル等の敷地として好適な条件を備える土地であること,② 右各土地は,原告東洋郵船が昭和37年から所有していたものであり,その所在位置,形状,地勢,接面街路,供給処理施設などの点において概ね相互に類似する(なお,B土地自体は当該地域の主な道路である県道(湯河原箱根仙石原線)に接していないが,これに隣接する原告東洋郵船所有の神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字六郎兵衛1146番81所在の土地が右県道に接している。)こと,③ B土地算出事例に係る売買価格の決定に関し通常の経済的動機に基づく要因の範囲を超える特殊な個別的事情は存在しないこと,④ B土地関連事例に係るその余の土地も,B土地と近接した地域にあることが認められる。
なお,前掲甲第3号証中には,B土地算出事例につき,地域の価格水準から相当の乖離がみられ,特殊事情により市場価格を全く考慮しないでなされた取引と認めざるを得ないとする記載部分があるが,前掲各証拠に照らし,また,同号証のいう特殊事例がいかなるものであるかは明らかでないことに徴して,右記載部分を直ちに措信することはできない。
ウ しかして,被告らは,右ア及びイの事実を根拠として,本件交換Ⅰ当時のB土地の1m2当たりの価額は,B土地算出事例における1m2当たりの価格199,000円と同額であると評価すべきである旨主張する。
確かに,右各事実によれば,B土地に隣接し又は近接する地域内の土地につき,昭和48年ないし昭和50年当時,既に1m2当たり150,000円程度とする市場価格が形成されていたことが窺われる上,B土地算出事例は,本件交換Ⅰの直前の時期に原告東洋郵船自身が3名の第三者との間で,B土地に隣接し,所在位置,形状,地勢,接面街路,供給処理施設などの諸条件が概ね類似する土地について行った売買取引であって,その売買価格の決定に関し特殊な個別的事情は存在しないのであるから,その限りでは,右(1)のイで述べたことに鑑み,本件交換Ⅰ当時のB土地の価額をB土地算出事例における売買価格と同額と評価することに合理性が認められないではない。
この点につき,原告らは,原告東洋郵船が行ったB土地算出事例のみを比較の対象とし,近隣地域又は同一需給圏内における類似の取引事例との比較を全く行わないのは,取引事例比較法の基本原則に反するものである旨主張するが,右(1)のイのとおり,取引事例比較法によって土地の価額を評価するについて収集,選択するべき取引事例は,できる限り,位置,形状,地勢,接面街路,供給処理施設,公法規制及び現況等の諸条件が対象土地と合致し,かつ,取引時点が近接し,さらに,価格の決定に個別的事情が寄与した度合いの少ないものであることが望ましいのであるから,一応そのような取引事例に当たると認められるB土地算出事例がB土地に隣接して存在するのであれば,それ以上に右の諸条件の合致する度合いの高い取引事例が存在するのでない限り,範囲を同一需給圏内に広げて他の取引事例を収集し,各種補正を施した上で比較の対象とすべき合理的な理由は見出し難いところ,B土地算出事例以上に右の諸条件に合致する度合いの高い取引事例が存在することを認めるに足りる証拠はない。
また,前掲甲第3号証は,7例の取引事例等に時点修正,事情補正並びに地域的要因及び個別的要因に係る補正を加えて,B土地近隣地域内の標準的な中間画地の価格を求めた上,右価格にさらにB土地の個別的要因に基づく補正を加えてB土地の価格を求める手法により,B土地の価額を1,823,850,000円と鑑定評価するものである。しかし,同号証が右7例を選択した理由やこれに加えた各種補正の基礎となる事情などは必ずしも明らかではない上,同号証は,B土地算出事例を,地域の価格水準から相当の乖離がみられ,特殊事情により市場価格を全く考慮しないでなされた取引であるものと認めざるを得ないとして,標準的な中間画地の価格を求める資料から除外するが,B土地算出事例における価格の決定に右のような特殊事情は存在しないことは右イの③のとおりであって,これを全く考慮しないでB土地の価額を鑑定評価した結果には合理性を認め難いから,同号証の鑑定評価の結果はこれを採用しない。
エa しかしながら,62号事件抗弁1の(三)の(2)のオのaの事実(B土地算出事例のうち凸版二社との契約について,いずれも神奈川県知事から,国土法24条に基づき,契約を解除するか又は売買代金額を1m2当たり67,200円に引き下げるよう求める本件勧告がなされたこと),原告らの主張及び再抗弁1の(二)の(2)のうち,B土地及びその近隣においては国土法23条2項1号所定の面積は5000m2であること,凸版二社との契約に係る本件勧告土地の面積はいずれも5000m2未満であったが,右各売買契約は国土法による規制を潜脱する意図でされたものであること,B土地算出事例のうち買主を精版不動産株式会社とする売買取引及びB土地関連事例に係る各売買取引はいずれも売買土地の面積が5000m2未満であったため,同条に基づく勧告はされていないこと,以上の事実は当事者間に争いがない。そして,右イの①のとおりB土地は,本件勧告土地を含むB土地算出事例に係る土地等と地続きの一団の土地であって,その所在位置,形状,地勢,接面街路,供給処理施設などの点において概ねこれと類似する土地であり,かつ,その面積は31,500m2であるから,本件交換Ⅰ当時,本件勧告に係る1m2当たり67,200円を超える価格でB土地につき売買等の契約をしようとすれば,国土法24条に基づき,本件勧告と同様に,契約の締結を中止するか又は売買代金額を1m2当たり67,200円に引き下げるよう求める勧告を受けるに至るものと推認することができる(なお,右の争いのない事実と成立に争いのない甲第1,第2号証及び弁論の全趣旨によれば,凸版二社との契約は,本来5,000m2以上の面積の土地を目的とする1個の売買契約であったものを,国土法による規制を潜脱する意図で5,000m2未満の土地の売買契約に分けて同法23条1項の届出をしなかったところ,契約締結後にこれが露見して本件勧告を受けたものであることが認められるから,本件勧告は,既に締結された売買契約を対象とし,その解除を求める内容となったものと推認されるが,本来であれば,契約の締結前に届出をすることを要し,また勧告も契約締結前にその中止を求める内容となるはずのものである。同法23条3項,24条2項)。
b 国土法は,国土利用計画の策定に関し必要な事項について定めるとともに,土地利用基本計画の作成,土地取引の規制に関する措置その他土地利用を調整するための措置を講ずることにより,総合的かつ計画的な国土の利用を図ることを目的とするものであり(同法1条),右行政目的を達成するため,都道府県知事は土地売買等の契約の締結に許可を必要とする規制区域を指定することができるとした外(同法12条,14条),規制区域以外であっても,一定面積以上の土地について土地売買等の契約をしようとする場合には,その当事者に対し所定の事項を都道府県知事に届け出ることを義務付け(同法23条),当該土地売買等の契約に係る売買等の価格が著しく適正を欠くなどの場合には,都道府県知事は当該土地等の売買の契約の締結を中止すべきことその他その届出に係る事項について必要な措置を講ずべきことを勧告することができるものとし(同法24条),さらに,右勧告を実効あらしめるために,都道府県知事に対し,勧告に基づいて講じた措置について報告をさせること(同法25条),勧告に従わない場合の公表(同法26条)などの権限を付与した上,右の届出や報告を怠った者に対しては罰則をもって臨んでいる(同法47条,49条)。
そして,右のような国土法による土地売買等の契約に対する規制は強力な実効性を有しており,現実には,同法23条2項1号所定の一定の面積以上の土地の売買契約等について同法24条に基づき契約締結の中止又は売買代金額の引下げを求める勧告がされた場合においては,当該勧告に係る価格を超える価格で売買契約等を締結することが著しく困難となることは,当裁判所に顕著である。
c そうすると,本件交換Ⅰ当時,B土地につき1m2当たり67,200円を超える価格で売買等の契約をすることは著しく困難であったことになるから,B土地の価額を評価するについて,このような事実は当然考慮されなければならない。
d 被告らは,同法24条の勧告により,当然に契約の効力が失われるものではなく,また,既にその地域で形成されている市場価格が直ちに右勧告による価格にまで引き下げられるものではない旨主張する。
しかして,右主張は,本件勧告の対象である凸版二社との契約の効力を問題とし,ひいては凸版二社との契約を含むB土地算出事例の,取引事例としての適格性を問題とする趣旨であるものと解されるところ,右aないしcのとおり,考慮すべきであるのは,本件勧告そのものによる凸版二社との契約の効力やB土地算出事例の取引事例としての適格性の問題ではなく,本件勧告の存在により推認される,本件交換Ⅰ当時,B土地につき1m2当たり67,200円を超える価格で売買等の契約をすることが著しく困難であったという事実なのであるから,右主張はそれ自体失当である。
e また,被告らは,国土法の適用を免れるために意図的に分筆して1回的に売却するものでない限り,B土地を分筆して売却することも充分に可能であり,その際当事者間の合意により本件勧告に係る価格を大幅に上回る価格で売買することに何らの問題もないとか,本件交換Ⅰ当時既にその地域の正常価格として形成されていた1m2当たり199,000円の取引価格は,仮にその後の是正勧告により引き下げられたとしても,これにより移転した本件交換Ⅰの財貨の客観的価値に何らの消長をも来すものではないとか,原告東洋郵船が本件交換Ⅰにより取得したB土地の客観的交換価値の総体を把握するために単位面積当たりの正常価格としてB土地算出事例の取引価格を採用することは,実質課税の原則を実現する上で当然のことであるとか主張する。
右各主張は,要するに,B土地を国土法による規制の及ばない5,000m2未満の面積の土地に分筆し,本件勧告に係る価格を上回る価額で売却することが可能である以上,B土地に含まれている客観的な交換価値は,その場合の交換価額の総体であるとするものであると解されるが,仮に,B土地が,かかる成立することが可能な交換価額の総体たる交換価値を潜在的には含むものであったとしても,本件交換Ⅰ当時,現実に5,000m2以上の面積を有し,かつ,その面積のままで本件交換Ⅰの目的とされている以上,顕在化している交換価値としては,国土法による規制の下における売買価格を基礎とした価額を想定すべきであるといわざるを得ないから,右各主張も失当というほかはない。
f 被告らは,さらに,凸版二社との契約が,実質的には有効に存続しているのと同様の経済的効果が生じており,そのような状態が継続している以上,その経済的実質に着目し,凸版二社との契約を,B土地の価額の評価に当たって参考とすべき取引事例として採用することに何ら不都合はないとも主張する。
しかし,仮に凸版二社との契約の現状が被告主張のとおりであるとしても,凸版二社との契約を含むB土地算出事例の取引事例としての適格性が問題となるものではないことは右dのとおりであるし,仮に右主張を,国土法24条に基づく勧告の実効性を問題とする趣旨であるものと解したとしても,凸版二社との契約の例のみを根拠として,右勧告が実効性に乏しいものと認めることはできないから,結局,右主張も失当である。
g なお,被告らは,本件交換Ⅰの契約の締結に当たり,当初は,原告東洋郵船がA土地に静岡物件を加えて,原告ら5名所有のB土地と交換する旨を約定していたから,本件交換Ⅰの契約当時者間においては,A土地とB土地との間には,静岡物件の価額に相当する価額差がある旨の認識があった旨主張するが,静岡物件の価額を明らかにする的確な証拠はないのみならず,本件交換Ⅰの契約当事者である原告らの認識の如何によって,B土地についての土地売買等の契約に対する国土法の規制に相違が生ずるものでもないから,右主張も失当である。
オ 右アないしエの各事実を総合すれば,本件交換Ⅰ当時におけるB土地の価額は,2,116,800,000円(1m2当たり67,200円)と評価することが相当である。
(3) 右(1),(2)のとおり,本件交換Ⅰ当時のA土地の価額は2,334,014,754円と,B土地の価額は2,116,800,000円と認められ,その差額は217,214,754円であるところ,右各土地の価額のうちの多額であるA土地の価額2,334,014,754円の20/100に相当する額は466,802,950円であるから,本件交換Ⅰは,交換時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額がこれらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超える場合に当たらない。
(三) 次に,特例Ⅰが適用されるためには,原則として,法人税の確定申告書に法人税法50条1項による圧縮額の損金算入に関する明細の記載があることが必要であるが,明細の記載がない場合であっても,その記載がなかったことにつきやむを得ない事情のある場合には,なお,特例Ⅰの適用があるものとされている(同条3項,4項)。
62号事件抗弁1の(二)の(1)のオの事実(原告東洋郵船から提出された本件事業年度の法人税の確定申告書に本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱにつきいずれも右の明細の記載がなかったこと)は当事者間に争いがない。
そこで,以下,右明細の記載がなかったことにつきやむを得ない事情があるとする原告の再抗弁について検討する。
(1) 特例Ⅰは,法人が一定の要件に該当する固定資産の交換を行った場合において,その取得資産につき,交換差益の範囲内で,その帳簿価額を損金経理により減額したときは,その減額した金額に相当する金額を当該事業年度の所得の計算上,損金に算入するというものであり(法人税法50条1項),換言すれば,当該交換に係る取得資産の帳簿価額を,概ね譲渡資産の帳簿価額と譲渡費用とを加えた額に相当する金額を限度として圧縮記帳することにより,本来発生している交換差益(取得資産の価額から譲渡資産の帳簿価額及び譲渡費用を差し引いた金額)に対する課税の繰延べを認めようとするものであるが,同項の規定上,当該交換をした法人が特例Ⅰの適用による課税の繰延べを受けるかどうかは当該法人の選択に委ねられていることも明らかである。そうすると,課税庁において,当該法人の申告に係る所得金額や法人税額が適正であるかどうかを判断するためには,当該法人が特例Ⅰの適用による課税の繰延べを受けることを選択したかどうか,また,右の圧縮限度額の計算が適正に行われており,圧縮額が右限度額の範囲内であるかどうかを,確定申告時に確知し得ることが必要であることは明らかであり,同条3項が,特例Ⅰは確定申告書に右の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り適用するものとした趣旨は,かかる必要性に基づくものと解される。
そうだとすれば,同条4項により,右の明細の記載のない確定申告書が提出された場合に,なお,その記載がなかったことについてやむを得ない事情があるとして,特例Ⅰの適用を認めるためには,当該法人の責めに帰すべからざる事由により,右の明細の記載をした確定申告書を提出したくとも,これをすることが不可能であったと認められるような客観的な事情が存在することを必要とし,単に当該法人の主観的な事情に基づいて右の明細の記載ができなかったという場合には,その記載がなかったことについてやむを得ない事情がある場合に当たらないものと解するのが相当である。
(2) 原告らの主張及び再抗弁3の(二)の(1)のうち,原告東洋郵船の渡部不動産部長が交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る実務を担当したこと,同(2)のうち,昭和57年2月8日にホテルニュージャパン火災事故が発生したこと,右事件によって同年11月18日に同原告代表取締役である横井英樹が業務上過失致死傷罪の被疑事実によって逮捕された上,引き続き昭和58年2月21日まで勾留され,同日釈放されたことは,当事者間に争いがなく,右争いのない事実及び右2の(一)の争いのない事実に,前掲乙第34号証,成立に争いのない乙第46,第53号証,原本の存在及びその成立に争いのない乙第54号証,証人井原弘の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば,① 原告東洋郵船は,本件交換Ⅰにつき原告ら5名と昭和56年11月30日付で不動産交換契約書を取り交わし,また,本件交換Ⅱにつき凸版印刷と昭和57年1月18日付で土地交換契約書を取り交わした上,同年2月1日凸版印刷との間で本件交換Ⅱを,また同年6月24日原告ら5名との間で本件交換Ⅰをそれぞれ実行し,所要の所有権移転登記手続きをしたこと,② 原告東洋郵船では,横井英樹の指示で渡部不動産部長が本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る事務処理を担当し,経理担当者は右各交換契約がなされたことを知らなかったこと,③ 同年2月8日,実質的に原告東洋郵船ないし横井英樹が経営をしていたホテルニュージャパンで多数の死傷者を出す火災事故が発生し,渡部不動産部長は右火災事故に伴う賠償等の処理をも担当していたこと,④ 渡部不動産部長は,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱが実行された後も,その関係書類を経理担当者に回付せず,また,横井英樹は右火災事故により同年11月18日に業務上過失致死傷罪の被疑事実によって逮捕された上,引き続き昭和58年2月21日まで勾留されていて,経理担当者に対し本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱについての指示ができなかったので,経理担当者は本件事業年度の法人税の法定申告期限に至っても,右各交換契約の存在を知らず,確定申告書に本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る法人税法50条4項の明細の記載をしないで本件事業年度の法人税の確定申告書を被告麹町税務署長に提出したこと,⑤ その後,経理担当者は本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱのなされたことを知り,昭和57年12月31日付に遡って会計帳簿に所要の記載をしたこと,⑥ 本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱについて,右の明細を記載するために必要な情報は,交換により譲渡した資産の種類及び用途,交換の相手先の氏名又は名称,交換の年月日,譲渡資産を取得した年月日,交換取得資産を交換の相手方が取得した年月日,譲渡資産の価額,取得資産の価額,譲渡資産の帳簿価額,譲渡資産の譲渡に要した経費の額のみであること,以上の事実を認めることができ,証人大津昌義及び同塩谷裕弘の各証言中,右認定と齟齬する部分は信用し難い。
(3) ところで,原告東洋郵船は,次のような主張をする。すなわち,同原告においては各取引の都度,関係書類を経理担当者に回付する処理をしないで,法人税の確定申告期限前にまとめて処理をする慣行であったところ,渡部不動産部長らは昭和58年2月当時,ホテルニュージャパンの火災事故に伴う遺族対策等の事務処理に忙殺されていて,原告東洋郵船の通常の業務を処理することはできなかったし,横井英樹は右(2)の④のとおり逮捕勾留され,昭和58年2月21日に釈放された後も勾留中に悪化した持病の療養のため船原温泉に滞在せざるを得ない状況で,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る具体的な指示,連絡等を原告東洋郵船の担当者にすることも不可能であった旨主張する。
しかしながら,右(2)の事実に即して検討するに,そもそも,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱによる資産の得喪があった以上,原告東洋郵船としては,速やかにその関係書類を交換に係る事務処理担当者から経理担当者に回付するなどして,これに伴う会計処理をし,その結果を会計帳簿等に記載していなければならないはずであるし,そのために交換の事務処理担当者が払う労力は僅かなものであると推認することができる。のみならず,法人税の確定申告書に明細を記載するために必要な情報の量及び種類は右(2)の⑥のとおりであって,これを経理担当者に伝達するについてもさして労力を要しないことは明らかである。そうすると,横井英樹についてはともかく,渡部不動産部長については,いかにホテルニュージャパン火災事故の事後処理に多忙であったとはいえ,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱの実行後,本件事業年度の法人税の法定申告期限までに,経理担当者に関係書類を回付し,あるいは事項を伝達することが不可能であったり困難であったりしたものとは到底認めることができない(なお,本件交換Ⅰの実行及び所有権移転登記手続きは,ホテルニュージャパン火災事故後間もなくであるにもかかわらず行われている。)。したがって,原告東洋郵船が本件事業年度の法人税の確定申告書に本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに係る法人税法50条4項の明細の記載をしなかったについては,ホテルニュージャパン火災事故による影響が全くなかったとはいえないとしても,同原告担当者らが本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱの実行後速やかに必要な内部連絡及び会計処理をせず,漫然とこれを怠っているうちに右法人税の法定申告期限が到来し,経理担当者において本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱがなされたことを知らずに確定申告をしたことに原因があるというべきであり,このことは,専ら原告東洋郵船内部の連絡等の不手際という主観的事情に基づくものであって,原告東洋郵船の責めに帰すべからざる事由によって,右の明細の記載をした確定申告書を提出したくとも,することが不可能であったと認められるような客観的な事情にあたらないことは明らかである。
そして,他に右明細の記載がなかったことにつきやむを得ない事情があることを認めるに足りる証拠はないから,原告の前記主張は採用できない。
(4) したがって,本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱについて特例Ⅰを適用することはできない。
(四) 本件交換Ⅰ及び本件交換Ⅱに特例Ⅰが適用されないとすれば,原告東洋郵船は,取得資産であるB土地及びD土地の圧縮記帳に伴う圧縮額の損金算入をすることはできない。そうすると,原告東洋郵船の申告所得金額に本件交換Ⅰ及び本件交換ⅡによるA土地及びC土地の譲渡益を加算すべきところ,右譲渡益は次のとおりである。
(1) 本件交換Ⅰについて
右(二)の(1)のオのとおり,A土地の交換時の価額は2,334,014,754円であり,また,62号事件抗弁1の(二)の(1)のカのaのうち,A土地の交換直前の帳簿価額が104,685,308円であることは当事者間に争いがないから,A土地の譲渡益は,交換時の価額に相当する2,334,014,754円を譲渡収入金額として,交換直前の帳簿価額104,685,308円を控除した2,229,329,446円である。
(2) 本件交換Ⅱについて
62号事件抗弁1の(二)の(1)のカのbのうち,C土地の交換時の価額が502,570,520円であること及びその交換直前の帳簿価額が3,713,757円であることは当事者間に争いがないから,C土地の譲渡益は,交換時の価額に相当する502,570,520円を譲渡収入金額として,交換直前の帳簿価額3,713,757円を控除した498,856,763円である。
(3) 右(1)及び(2)の譲渡益の合計額は2,728,186,209円である。
(五) 被告麹町税務署長は,交換時のB土地の価額を6,268,500,000円とし,これに相当する金額のうちA土地の価額に相当する2,334,014,754円を超える部分の金額3,934,485,246円は,原告ら5名からの無償の資産の譲受けに係る受贈益として,これを原告東洋郵船の申告所得金額に加算すべきである旨主張するが,右(二)の(2)のオのとおり,本件交換Ⅰ当時のB土地の価額は2,116,800,000円であって,右金額は本件交換Ⅰ当時のA土地の価額に相当する2,334,014,754円を下回るから,原告東洋郵船に主張の受贈益は生じない。
3 受取利息計上漏れ(横井英樹分)に係る金額について
(一) 62号事件抗弁1の(二)の(2)のアの事実,同イのうち,本件事業年度の初日である昭和57年1月1日における本件仮払金等の残高は2,168,709,754円であったこと,原告東洋郵船が同年11月16日付で本件仮払金等のうち750,000,000円を投資有価証券勘定へ,同年12月31日付で1,091,754,304円を日本産業勘定へ,同日付で299,850,028円を東洋不動産勘定へそれぞれ振り替える本件振替処理をしたこと,本件振替処理のうち,750,000,000円を投資有価証券勘定へ振り替えた処理が架空のものであること,日本産業及び東洋不動産はいずれも原告東洋郵船と同様,横井英樹及びその一族を株主とする同族会社であり,その各経理処理は原告東洋郵船の経理担当者が兼ねて行っていたこと,以上の事実は当事者間に争いがない。
被告麹町税務署長は,本件振替処理のうち関連会社振替処理についても,その処理の根拠となるべき資金の移動がないのに,経理担当者が同一であることを奇貨とし,課税回避を目的としてなされた架空のものである旨主張し,他方,原告東洋郵船は,横井英樹が昭和57年12月31日に,同人の日本産業に対する貸付金1,091,754,304円及び同人の東洋不動産に対する貸付金299,850,028円,合計1,391,604,332円の貸付金債権を,同人の原告東洋郵船に対する本件仮払金等の返還債務のうち右同額の弁済に代えて,原告東洋郵船に譲渡する本件債権譲渡をしたので,これに伴う経理処理として,関連会社振替処理をしたものであると主張する。そこで,以下,本件債権譲渡の存否について判断する。
(二)(1) 62号事件抗弁1の(二)の(2)のエのdのうち,原告東洋郵船の取締役会が本件債権譲渡につき決議を行っていないこと,同dのうち,日本産業が昭和57年12月31日付で,関連会社振替処理に係る金額を含む横井英樹に対する昭和56年12月末日現在の債務の合計額1,122,469,614円を,原告東洋郵船に対する債務に振り替える経理処理を行ったこと,昭和62年1月24日に日本産業が,1,122,469,614円を横井英樹の預金口座に入金し,横井英樹が右入金に係る金額と同額を原告東洋郵船の預金口座に入金する処理をしたこと,以上の事実は当事者間に争いがなく,右争いのない事実に原本の存在及びその成立に争いのない甲第18号証,乙第49ないし第52号証,証人塩谷裕弘,同井原弘の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると,① 東京国税局所属の係官塩谷裕弘外1名は,昭和61年1月から2月にかけて,原告東洋郵船の本件事業年度に係る法人税の調査を行ったこと,② 原告東洋郵船に対しては,本件事業年度に係る法人税調査の前にも,昭和57年に東京国税局所属の係官が昭和56年1月1日から同年12月31日までの事業年度以前の事業年度の法人税の調査をしており,その際,調査を担当した係官は,原告東洋郵船の横井英樹等に対する仮払金を貸付金と認定した上,認定利息を計上して役員報酬として認容する処理方針を原告東洋郵船の関係者に示し,実際に右のような内容を含む更正がされたことがあったこと,③ 塩谷裕弘らが調査を実施した際,調査場所である原告東洋郵船の本社には,原告東洋郵船の帳簿書類の外,日本産業及び東洋不動産の帳簿等も保管されており,右各帳簿には,本件振替処理に係る記帳がされていた外,原告東洋郵船が日本産業及び東洋不動産に対し関連会社振替処理に係る貸付金を有するに至ったものとして,その受取利息の計上もされていたこと,④ しかし,関連会社振替処理に関しては,右各帳簿の外は,原告東洋郵船,日本産業及び東洋不動産の各会社ごとに昭和57年12月31日付の振替伝票が作成されただけで,本件債権譲渡に係る契約書その他の処分証書並びに日本産業及び東洋不動産に対する債権譲渡の通知書又は右各社の承諾書は作成されておらず,また,原告東洋郵船の取締役会が本件債権譲渡につき承認決議をしたようなことのなかったこと,⑤ 日本産業は,昭和57年12月31日付で,関連会社振替処理に係る金額を含む横井英樹に対する昭和56年12月末日現在の債務の合計額1,122,469,614円を,原告東洋郵船に対する債務に振り替える経理処理を行っていたころ,昭和62年1月24日,日本産業は,改めて右1,122,469,614円を横井英樹の預金口座に入金し,さらに横井英樹はその入金に係る金員を原告東洋郵船の預金口座に入金するという処理をしたこと,以上の事実を認めることができる。
(2) 右(1)の事実及び右(一)の争いのない事実によると,右振替処理は,昭和57年12月31日に行われており,このことからすれば,原告東洋郵船主張の債権譲渡もその直近に行われたものと推認される。しかしながら,証人井原弘の証言によれば,本件振替処理に係る債権の権利者である横井英樹個人は,ホテルニュージャパン火災における業務上過失致死傷罪の被疑事実により同年11月18日逮捕勾留されて昭和58年2月まで身柄を拘束されており,原告東洋郵船の経理担当者らが連絡できる状態ではなかったというのであるから,右のような時期に行われたものと推認される債権譲渡が横井英樹の意思を反映していた可能性はほとんど考えられないことになるのであって,そのことは,すなわち,右の債権譲渡が行われてはいなかったことを推測させることになるのである。原告東洋郵船は,横井英樹の右経理処理に関する指示は,昭和57年11月18日までの間に出されたと主張する。しかし,そのような事実を認めるべき証拠は存在しない(証人井原弘も,横井英樹の指示に基づいて右経理処理を行ったとは述べるものの,その指示がいつなされたのかについては述べていない。)。そして,仮にその主張の日までに横井英樹からそのような指示が出たのであれば,経理担当者としては,直ちにそのような経理処理を行うはずであって,わざわざ1か月以上も経過した昭和57年12月31日までその処理をしないでおかなければならない合理的理由はないのである。
また,関連会社振替に係る金額は1,300,000,000円余に上るにもかかわらず,記帳処理がなされたのみで,本件債権譲渡に係る処分証書のように実体的な権利関係の変動を証明する書面や,その効力に影響する日本産業及び東洋不動産に対する債権譲渡の通知書又は右各社の承諾書等が作成されていないばかりか,原告東洋郵船とその代表取締役である横井英樹との間で代物弁済契約という利益相反行為が行われたというのに原告東洋郵船の取締役会の承認決議も存在していないのみならず,後になって,日本産業,横井英樹,原告東洋郵船の間で,本件債権譲渡とは明らかに相容れない資金の移動が行われているのであるから,同族会社とその代表者との間の取引であるとはいえ,本件債権譲渡という実体的な権利変動を目的とした行為が存在したというには,いかにも不自然なのである。これらのことからすれば,むしろ,関連会社振替処理は,実体的な権利関係とは関わりなく,帳簿上の原告東洋郵船の横井英樹に対する本件仮払金等の額を減少させることだけを目的として,これをしたのではないかと強く疑われるのである。加えて,日本産業及び東洋不動産は,いずれも原告東洋郵船と同様,横井英樹及びその一族を株主とする同族会社であって,その帳簿は原告東洋郵船の本社に保管されて原告東洋郵船の経理担当者が兼ねてその記帳を行っており,また,関連会社振替処理は,原告東洋郵船に対し昭和57年に実施された法人税調査の際に,その関係者に対して原告東洋郵船の横井英樹等に対する仮払金を貸付金と認定した上,認定利息を計上して役員報酬として認容する処理方針が示されてから間もなく行われているのであるから,原告東洋郵船の経理担当者が,実体的な権利関係とは関わりなく関連会社振替処理をすることは極めて容易であり,また,課税回避のためにかかる処理をする現実の必要も存在していたものということができる。現に,原告東洋郵船のした本件振替処理中の投資有価証券勘定へ750,000,000円を振り替えた処理については,その根拠となるべき資金の移動を伴わない架空のものであり,課税回避を目的としてこれをしたことが推認されるところである。
そうすると,本件債権譲渡は存在しないことが推認される。したがって,関連会社振替処理は,課税回避を目的として,その処理の根拠となる事実がないのになされた架空のものというべきである。
(3) 原告東洋郵船は,同原告と日本産業とがいずれも横井英樹及びその一族を株主とする同族会社で,従前から巨額の資金融通を常時行ってきたが,それについて貸借の証書を作成したことはなく,両社の記帳のみで処理をしてきており,本件債権譲渡についても,原告東洋郵船,日本産業及び東洋不動産においてこれに伴う経理処理がされていることが,本件債権譲渡が行われたこと並びにこれについて日本産業及び東洋不動産の承諾があったことを証するに足りるものであると主張する。
原告東洋郵船と日本産業とがいずれも横井英樹及びその一族を株主とする同族会社であることは右(一)のとおり争いがなく,また,成立に争いのない甲第12,第13,第第16号証,証人井原弘の証言によれば,原告東洋郵船と日本産業及び東洋不動産との間に従前から巨額の金員の貸借が常時在住していたが,それについて貸借の証書を作成したことはなく,両社の記帳のみで処理をしてきた事実が認められる。
しかしながら,右のとおり,原告東洋郵船と日本産業及び東洋不動産との間の金員の貸借関係は常時存在するのに対して,本件債権譲渡のように横井英樹の有する日本産業又は東洋不動産に対する債権が原告東洋郵船に譲渡されたようなことが頻繁にあったことを認めるに足りる証拠はないから,右両者はその意義,性格を異にするものである上,原告東洋郵船と日本産業及び東洋不動産との間の金員の貸借については,現実にそれが存在しないのに,帳簿上,架空の経理処理をしなければならないような必要性を認めるに足りる証拠はないのに対し,関連会社振替処理については,右(2)のとおり,架空の経理処理をする必要性が存在するのであるから,前者については,貸借の証書がなくとも,各会社の帳簿にその旨の記帳処理がなされていれば,一応右貸借関係の存在が認められるとして差し支えないからといって,後者についても同様であるとはいえない。したがって,原告東洋郵船の右主張は失当である。
(4) 原告東洋郵船は,本件債権譲渡のなされた当時,日本産業は不動産,有価証券等多くの資産を所有しており,これらの所有資産の内容を総合した資力には全く問題がなかったから,本件債権譲渡による代物弁済は原告東洋郵船と横井英樹との利益相反行為に当たるものではないし,原告東洋郵船及び横井英樹は,このような日本産業の資力の実態を知悉していたから,取締役会による承認の手続きを取らなかったものである旨主張する。
しかし,代物弁済は,債務の本来の給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させることを内容とするものであり,本旨弁済とは異なって,債権者,債務者間に新たな利害関係を生じさせるものであるから,これが会社とその取締役との間で行われる場合にはその間の利益相反行為に当たり,取締役会の承認を必要とすることはいうまでもない。そして,右代物弁済における新たな給付が債権の譲渡である場合において,当該債権に係る債務者の資力が仮に客観的には充分であるものとしても,代物弁済の当事者である債権者,債務者間に新たな利害関係を生じさせるものである以上,利益相反行為に当たることに変りはないし,また,取締役会が当該譲渡債権の債務者の資力等を独自の立場で検討して代物弁済を承認するか否かを決定する必要は,なお存在するものというべきである。したがって,原告東洋郵船の右主張は,それ自体失当である。
(5) 原告東洋郵船は,被告麹町税務署長が,原告と日本産業との間の貸借や原告東洋郵船の横井英樹に対する貸付金債権と認定した本件仮払金等について,従前から証書や取締役会決議のないことを一切問題とせずに課税をしてきたのに,税額を減少させる原因となる本件債権譲渡についてだけは,証書や取締役会決議のないことを理由に否認しており,このような取扱いは矛盾するものであると主張する。
しかしながら,原告東洋郵船と日本産業及び東洋不動産との間の金員の貸借関係と本件債権譲渡ではその意義,性格等を異にすること及び原告東洋郵船と日本産業及び東洋不動産との間の金員の貸借については,現実にそれが存在しないのに,帳簿上,架空の経理処理をしなければならないような必要性はないが,関連会社振替処理については,架空の経理処理をする必要性が存在するから,前者については,貸借の証書がなくとも一応貸借関係の存在を認定できるのに対し,後者についてはそうはいえないことは,右(3)のとおりであり,また,原告東洋郵船の横井英樹に対する貸付金債権と認定された本件仮払金等の存在についても,右の貸借の認定と同様のことがいえるから,被告麹町税務署長が,貸借の証書や取締役会決議のないことを理由の一として,本件債権譲渡を否認した取扱いが矛盾するものであるとはいえないし,また,不合理であるともいえない。したがって,原告東洋郵船の右主張も失当である。
(6) さらに,原告東洋郵船は,昭和62年1月24日に日本産業が1,122,469,614円を横井英樹の預金口座に入金し,横井英樹がさらに右入金に係る金員を原告東洋郵船の預金口座に入金した処理について,東京国税局の係官が現実の資金移動がなければ関連会社振替処理を認めることはできない旨告げたので,原告東洋郵船は,右指示に納得できなかったものの,横井英樹に係る誤った認定利息に基づく課税が続くことを避けるために,形式上資金移動が行われた外形だけを作出したものであると主張し,証人井原弘の証言中には右主張に沿う部分が存在する。
しかし,証人塩谷裕弘の証言及び弁論の全趣旨によれば,課税庁側が本件債権譲渡を否認するのは,関連会社振替処理が昭和57年の法人税調査の際に,原告東洋郵船の関係者に対し本件仮払金等に関する処理方針が示されてから間もなく行われていることや,日本産業及び東洋不動産の帳簿は原告東洋郵船の経理担当者が兼ねてその記帳を行っていたことの外,本件債権譲渡に処分証書や債務者への通知書又は債務者からの承諾書が伴わない上,原告東洋郵船の取締役会の承認決議もないことなどを理由とするものであり,そのことは原告東洋郵船も承知していること,したがって,仮に右のような書面が作成され,かつ,現実に取締役会の承認決議を経た上で,本件債権譲渡と同内容の債権譲渡があれば,課税庁としても,これを否認する理由がなくなることが認められる。そうであるとすれば,東京国税局の係官が現実の資金移動がなければ関連会社振替処理を認めることはできない旨を原告東洋郵船に告げたとは考え難いし,また,本件債権譲渡が真実存在しているとすれば,原告東洋郵船が,横井英樹に係る認定利息に基づく課税が続くことを避けるために,債権譲渡の処分証書や通知書等を作成し,かつ,取締役会決議を経た上で改めて本件債権譲渡と同内容の債権譲渡を行うのではなく,本件債権譲渡とは明らかに相容れない右各入金処理をした理由も理解し難い。そうすると,証人井原弘の右証言を直ちに措信することはできないというべきであり,他に原告東洋郵船の右主張を認めるに足りる証拠はない。
(三) 62号事件抗弁1の(二)の(2)のウのうち,本件振替処理に係る合計21,41,604,332円の減少以外に,本件事業年度中,本件仮払金等の額に変動はなかったこと,原告東洋郵船が金融期間等から借入れを行う際の借入利率及び原告東洋郵船が関連会社に貸付けを行う際の貸付利率の平均が年8%を下回ることはないこと,原告東洋郵船は横井英樹からの受取利息として40,064,688円を本件事業年度に未収計上したこと,以上の事実は当事者間に争いがなく,また,本件事業年度の初日である昭和57年1月1日における本件仮払金等の残高が2,168,709,754円であったことは右(一)のとおりである。
そうすると,右(一)及び(二)のとおり,本件振替処理は,その合計2,141,604,332円全額が架空の経理処理であるから,本件仮払金等の額2,168,709,754円に8%を乗じて得た173,496,780円から,右受取利息未収計上額40,064,688円を控除した133,432,092円は,本件事業年度において,原告東洋郵船が横井英樹から収受すべき受取利息の計上漏れ額であると認められる。
4 過大役員報酬否認に係る金額について
62号事件抗弁1の(二)の(3)のうち,原告東洋郵船が横井英樹個人の家事使用人に対し支出した給料等11,016,000円を役員報酬として期末に振替計上したこと,本件事業年度において原告東洋郵船が横井英樹に対して支給すべき適正役員報酬額が年額25,200,000円であることは当事者間に争いがない。
そして,後記5のとおり,右3の原告東洋郵船が横井英樹から収受すへき受取利息の計上漏れ額133,432,092円は同人に対する役員報酬とみなすべきであるから,原告東洋郵船が本件事業年度に横井英樹に支給した役員報酬額の合計額は144,448,092円となるところ,右金額中,右の適正役員報酬年額25,200,000円を超える119,248,092円は,法人税法34条1項の不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額に当たることになり,これを損金に算入することはできないから,所得金額に加算すべきである。
5 法人が金銭を貸し付けたにもかかわらず,通常収受すべき利息を取得せず,その相手方がその支払を免れている場合には,法人税法上,当該法人は,その相手方に対して通常収受される利息の額に相当する金額の経済的利益を供与したものと解される。そして,右3の(三)のとおり,原告東洋郵船は,本件事業年度において,横井英樹に対する実質的な貸付金である本件仮払金等の額に係る受取利息認定額のうち133,432,092円を利息として計上せず,横井英樹は右利息相当額の負担を免れているから,原告東洋郵船は,横井英樹に対し右計上漏れ利息相当額の経済的利益を与えたことになり,右経済的利益の供与は実質的に横井英樹に対して役員報酬を支給したと同様の経済的効果を有することになる。
そうすると,右計上漏れ利息相当額133,432,092円を横井英樹に対する役員報酬とみなすべきである。
6 受取利息過大計上額について
(一) 日本産業勘定に係る過大計上額
原告東洋郵船が日本産業に対し関連会社振替処理による貸付金を有するものとして,その受取利息の計上をしていたことは右3の(二)の(1)の③のとおりであり,関連会社振替処理が架空のもので認めることができないことも右3の(二)の(2)のとおりである。
したがって,原告東洋郵船が,本件事業年度中に,日本産業勘定で同社に対する債権についての受取利息として計上した金額のうち,関連会社振替処理により有するに至ったとされる債権額に係る受取利息の額は,過大計上として収入から差し引くべきところ,62号事件抗弁1の(二)の(5)のアのうち,原告東洋郵船と関連会社との間で授受される貸付金等の受取利息の額の計算方法が当該貸付金等の期首残高と期末残高との合計額の1/2に年利率8%を乗ずるというものであることは当事者間に争いがなく,また,関連会社振替処理のうち日本産業勘定に振り替えた額が1,091,754,304円であることは右3の(一)のとおりであり,さらに弁論の全趣旨によれば,本件事業年度の日本産業勘定の期首残高が4,038,126,993円であること及び帳簿上の期末残高が7,289,390,288円であることが認められる。
そうすると,日本産業勘定における受取利息の過大計上額は,62号事件抗弁1の(二)の(5)のアの計算のとおり,43,670,172円となる。
(二) 東洋不動産に係る過大計上額
原告東洋郵船が東洋不動産に対し関連会社振替処理に係る貸付金を有するものとして,その受取利息の計上をしていたことは右3の(二)の(1)の③のとおりであり,関連会社振替処理が架空のもので認めることができないことも右3の(二)の(2)のとおりである。
したがって,右(一)と同様,原告東洋郵船が,本件事業年度中に,東洋不動産勘定で同社に対する債権についての受取利息として計上した金額のうち,関連会社振替処理により有するに至ったとされる債権額に係る受取利息の額は,過大計上として収入から差し引くべきところ,関連会社振替処理のうち東洋不動産勘定に振り替えた額が299,850,028円であることは右3の(一)のとおりであり,また,弁論の全趣旨によれば,原告東洋郵船の東洋不動産勘定における本件事業年度の期首残高は83,648,999円の借越残であったこと,原告東洋郵船は帳簿上の期末残高が205,489,439円の貸越残であったとして,62号事件抗弁1の(二)の(5)のイの計算のとおり,受取利息として4,873,617円を計上したことが認められる。
そうすると,東洋不動産に係る関連会社振替処理がなかったものとした場合の期末残高は,右帳簿上の期末貸越残高205,489,439円から関連会社振替処理に係る金額299,850,028円を差し引いた94,360,589の借越残となるから,右受取利息計上額4,873,617円全額が過大計上額となる。
7 支払利息認容に係る金額について
右6の(二)のとおり,原告東洋郵船の東洋不動産勘定における本件事業年度の期首残高は83,648,999円の借越残であり,また,期末残高は94,360,589円の借越残であったものと認められるから,右借越金額に係る支払利息の額を費用として認めるべきところ,右支払利息の額は,62号事件抗弁1の(二)の(6)の計算のとおり,7,120,383円となる。
8 以上によれば,原告東洋郵船の本件事業年度の所得金額算出に係る項目及びその金額は,別表第四の加算額中の受贈益計上漏れ額を0円とする外は同表のとおりであり,その所得金額は,2,758,178,638円となる。
そうすると,原告東洋郵船に対する更正及び賦課決定は,原告東洋郵船の本件事業年度の所得金額を2,758,178,638円として計算した額の限度で適法であり,これを超える部分は違法である。
三 本件各納税告知処分及び本件各不納付加算税賦課決定の適否について
1 62号事件抗弁3の(一)のうち,別表第八の「横井英樹に係る納付漏れ所得税額」欄のうちの役員報酬支給額の「その他」の欄,「(C)役員賞与認定額」欄,「(D)Cに対する所得税額」欄及び「(E)納付済所得税額」欄並びに「(G)横井邦彦に係る納付漏れ所得税額」欄,「(H)横井裕彦に係る納付漏れ所得税額」欄及び「(I)横井路子に係る納付漏れ所得税額」欄記載の各金額については当事者間に争いがない。
2 認定利息額について
(一) 原告東洋郵船の横井英樹に対する本件仮払金等に係る受取利息の計上漏れ額を原告東洋郵船が横井英樹に対して支給した役員報酬額と認定すべきことは,右二の5のとおりであるから,右認定に係る役員報酬額は,原告東洋郵船が被告麹町税務署長に納付すべき横井英樹に係る源泉所得税の算出の基礎となることになる。
ところで,右二の3の(一)のとおり,62号事件抗弁1の(二)の(2)のアの事実中,原告東洋郵船が横井英樹に支給していた金員のうち当初から横井英樹に対して支出されたことが明らかであるものは,期中はH・Y勘定として処理し,本件事業年度前までは原則として期末に同勘定の残高を仮払金勘定に振り替える処理をしていたことは当事者間に争いがなく,62号事件抗弁1の(二)の(2)のウのうち,本件事業年度のH・Y勘定の残高374,810,121円を仮払金勘定に振り替える処理がなされなかったことも当事者間に争いがない。そうすると,H・Y勘定に係る金額は,本件事業年度前までは仮払金勘定の一部内訳を構成し,本件仮払金等に含まれる関係にあったものが,本件事業年度以降は,本件仮払金等に係る勘定科目とは別個に処理されるに至ったことになるが,別個に処理されることとなった本件事業年度以降においても,その勘定科目に計上される金員の性質が実質的に原告東洋郵船の横井英樹に対する貸付金であって,これに係る受取利息の計上漏れ額を原告東洋郵船が横井英樹に対して支給した役員報酬額と認定して右の源泉所得税算出の基礎とすべきことは,本件仮払金等の場合と同様であることは明らかである。
したがって,本件事業年度以降においては,本来であれば,原告東洋郵船が横井英樹に対して支給した役員報酬額と認定して右の源泉所得税算出の基礎とすべき金額は,本件仮払金等及びこれに含まれないH・Y勘定に係る金額の合計額を基礎として算出した受取利息計上漏れ額であることになるが,事業年度によって,右合計額の範囲内の金額を基礎として算出した受取利息計上漏れ額をもって役員報酬額と認定し,右の源泉所得税算出の基礎とすべき金額としたとしても,源泉所得税算出の基礎とすべき本来の金額を超える金額を右算出の基礎としたことにはならないから,適法である。
(二) 本件事業年度(昭和57年1月1日から同年12月31日まで)の本件仮払金等に係る受取利息計上漏れ額が133,432,092円であることかは右二の3の(三)のとおりである。したがって,被告麹町税務署長が原告東洋郵船に対し,同年1月から同年12月までの各月について,右金額を12で除して得た11,119,341円を原告東洋郵船の横井英樹に対する役員報酬支給額に加え,これと右1の争いのない金額とに基づいて,別表第八のとおり算出した納付漏れ源泉所得税額(同表の「(J)納付漏れ所得税額合計額」欄記載の金額)の納税告知をした同年1月から同年12月分に係る本件各納税告知処分は適法である。
(三) 62号事件抗弁3の(二)のうち,別表第九(A)欄,(C)欄及び(F)欄記載の金額は当事者間に争いがなく,原告東洋郵船と関連会社との間で授受される貸付金等の受取利息の額の計算方法が当該貸付金等の期首残高と期末残高との合計額の1/2に年利率8%を乗ずるといういうものであることは右二の6の(一)のとおりである。
そして,本件仮払金等のうち関連会社振替処理に係る金額を含む本件振替処理に係る金額2,141,604,332円の全額が架空の経理処理であることは,右二の3の(一)及び(二)の(2)のとおりであるから,被告麹町税務署長が原告東洋郵船に対し,同原告の昭和58年1月1日から同年12月31日まで,昭和59年1月1日から同年12月31日まで,及び,昭和60年1月1日から同年12月31日までの各事業年度のH・Y勘定の期首残高及び期末残高(別表第九の「(A)H・Y勘定残高」欄記載の金額)にそれぞれ本件振替処理に係る額(同表の「(B)合計額」欄記載の額)を加算し,同表の「(C)減額修正」欄記載の金額を減算した金額(同表の「(D)AないしCの合計額」欄記載の額)を期首残高及び期末残高として,右の受取利息の額の計算方法に従い,右各事業年度ごとに期首残高と期末残高との合計額の1/2に年利率8%を乗じて得た額(同表の「(E)受取利息の額」欄記載の額」から,受取利息として未収計上された額(同表の「(F)受取利息未収計上額」欄記載の額)を控除した額(同表の「(G)受取利息計上漏れ額」欄記載の額)を右各事業年度の受取利息計上漏れ額とし,これを役員報酬額と認定した上,右各事業年度ごとに12で除して得た額を,当該事業年度に含まれる各月についての役員報酬支給額に加え(1円未満の端数は各年の12月分に計上),これと右1の争いのない金額とに基づいて,別表第八のとおり算出した納付漏れ源泉所得税額(同表の「(J)納付漏れ所得税額合計額」欄記載の金額)の納税告知をした昭和58年1月から昭和60年12月分に係る本件各納税告知処分は適法である。
(四)本件各不納付加算税賦課決定は,本件各納税告知処分により原告東洋郵船が新たに納付すべきこととなった各月分の源泉所得税の額(ただし,昭和59年11月分については重加算税賦課決定の基礎とした部分942,500円を除いた額。なお,国税通則法118条3項により10,000円未満の端数切捨て)に,国税通則法67条1項により10/100の割合を乗じて得た額の不納付加算税を賦課したものであると認められるから,適法である。
第二63号事件について
一 63号事件請求の原因1の事実,同事件抗弁1の(一)及び同(二)の(1)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 特例Ⅱは,交換の時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額が,これらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超えるときは適用されない(所得税法58条2項)。
被告玉川税務署長は,本件交換Ⅰにおける,譲渡資産であるB土地の交換時の価額が6,268,500,000円と,取得資産であるA土地の交換時の価額は2,334,014,754円とそれぞれ評価され,その差額3,934,485,246円はB土地の価額の20/100に相当する額を超えているとして,本件交換Ⅰにつき特例Ⅱを適用することはできないと主張するところ,本件交換Ⅰ当時のA土地の価額が2,334,014,754円であることは,右第一の二の2の(二)の(1)のオのとおりであるが,本件交換Ⅰ当時のB土地の価額は,同(2)のオのとおり,2,116,800,000円であると認められる。そうすると,本件交換Ⅰ当時のB土地とA土地との差額は217,214,754円であり,他方,右各土地の価額のうちの多額であるA土地の価額2,334,014,754円の20/100に相当する額は466,802,950であるから,本件交換Ⅰは,交換時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額がこれらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超える場合に当たらない。
したがって,交換時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額が,これらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超えることを理由として,本件交換Ⅰにつき特例Ⅱを適用することができないとする被告玉川税務署長の主張は失当であり,右主張を前提として,原告邦彦にB土地の譲渡を原因とする長期譲渡所得が生ずる旨の主張も失当である。
三 右一及び二によれば,原告邦彦に対する更正及び賦課決定のうち,総所得金額を15,212,846円,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分は違法である。
第三64号事件について
一 64号事件請求の原因1の事実,同事件抗弁1の(一)及び同(二)の(1)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 被告麻布税務署長は,本件交換Ⅰにつき,交換時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額が,これらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超えることを理由として,特例Ⅱを適用することができないとし,これを前提として,原告智津子にB土地の譲渡を原因とする長期譲渡所得が生ずる旨主張するが,右主張が失当であることは,右第二の二と同様である。
三 右一及び二によれば,原告智津子に対する更正及び賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分は違法である。
第四65号事件について
一 65号事件請求の原因1及び2の各事実,同事件抗弁1の(一)及び同(二)の(1)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 被告雪谷税務署長は,本件交換Ⅰにつき,交換時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額が,これらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超えることを理由として,特例Ⅱを適用することができないとし,これを前提として,原告路子及び同由美子にB土地の譲渡を原因とする長期譲渡所得が生ずる旨主張するが,右主張が失当であることは,右第二の二と同様である。
三 右一及び二によれば,原告路子に対する更正及び賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分は違法であり,また,原告由美子に対する更正及び賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分も違法である。
第五66号事件について
一 66号事件請求の原因1の事実,同事件抗弁1の(一)及び同(二)の(1)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 被告渋谷税務署長は,本件交換Ⅰにつき,交換時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額が,これらの価額のうちいずれか多い価額の20/100に相当する金額を超えることを理由として,特例Ⅱを適用することができないとし,これを前提として,原告枝理子にB土地の譲渡を原因とする長期譲渡所得が生ずる旨主張するが,右主張が失当であることは,右第二の二と同様である。
三 右一及び二によれば,原告枝理子に対する更正及び賦課決定のうち,分離課税の長期譲渡所得金額を0円として計算した額を超える部分は違法である。
第六結語
以上によれば,62号事件に係る原告東洋郵船の被告麹町税務署長に対する請求中,原告東洋郵船に対する更正及び賦課決定のうちの本件事業年度の所得金額を2,758,178,638円として計算した額を超える部分の取消しを求める部分は理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,63号事件に係る原告邦彦の被告玉川税務署長に対する請求,64号事件に係る原告智津子の被告麻布税務署長に対する請求,65号事件に係る原告路子及び同由美子の被告雪谷税務署長に対する各請求及び66号事件に係る原告枝理子の被告渋谷税務署長に対する請求はいずれも理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条,92条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 石原直樹 裁判官 長屋文裕)
<以下省略>